J.H.倶楽部 情報・交流・相談の場を通じて、
HRMの未来をともに描く
× 閉じる

Limited Archive 無料限定公開記事

特集│CASE 1 NEC
テレワークは組織文化変革と
自主性尊重のため
理念の明文化・対話・研修で
マネジメント力強化を目指す

「働きがい」を目指して長年にわたり取り組みを進めるNEC。
近年は、組織のカルチャー変革を視野に入れたテレワークにも積極的に取り組んでいる。
同社のテレワーク導入による効果とマネジメント力強化策を、今後の方向性を含めて聞いた。

杉本稚代氏 NEC 人材組織開発部 シニアマネージャー
藤井沙紀氏 人事総務部 主任

日本電気株式会社
1899年設立。政府・官公庁向けパブリック事業、民需向けのエンタープライズ事業、通信事業者向けのネットワーク事業、ビジネス向けのコンピュータ・ソフトウェアなどを提供するシステムプラットフォーム事業、海外市場向けのグローバル事業の5つの事業から成り立つ。
資本金:3,972億円(2020年3月末現在)
連結売上高:3兆952億円(2019年度実績)
連結従業員数:11万2,638名(2020年3月末現在)

[取材・文]=菊池壯太 [写真]=NEC 提供

30年以上にわたり働きがいを追求

5Gをはじめとするネットワーク技術や生体認証、AI、IoT といった先端技術の開発と提供、そして、海底から宇宙まで、あらゆる業種において、幅広く社会インフラを支える日本電気(以下、NEC)。グローバルで社員数11万人を数える同社は、社員の「働き方」に関しても、30年以上にわたり多くの実験的な取り組みを続けてきた。

1984年には国内初の試みとして東京・吉祥寺にサテライトオフィスを開設。以降も裁量労働制度(1998年)、モバイルワーク基盤(2008年)、勤務間インターバル(2012年)等の取り組みを進めてきたが、2017年度になると、働き方改革の推進を本格化。翌2018年には、社内変革の一大プロジェクトとして「Project RISE」を始動させた。

Project RISE では、社内変革のひとつとしてスマートな働き方の実現を目指し、「意識改革」「インフラの整備」「業務・プロセスのシンプル化」という3つのアクセラレーター(加速媒体)のもと(図1)、一人ひとりのパフォーマンスを最大化するために、「働く時間」「働く場所」「働くスタイル」をよりフレキシブルなものにしていくことがうたわれている(図2)。

こうした流れの一環として2017年に作成され、翌年春から運用が始まったのが、テレワークでのセキュリティーの考え方や注意点、マネジメントの留意点をまとめ、社員に周知するための「テレワークガイドライン」である。同ガイドラインが策定される以前からテレワーク活用を推進してきた同社であるが、同ガイドラインの特徴は、全社員が利用することを前提に策定されたことだ。翌年4月には、制度としての制限を大きく緩和した。

たとえば、以前はテレワークの対象となるのは、事前に書面で申請し上司の許可を得た人に限られていたが、書面の申請を廃止した。また、テレワークの回数についても週1回までだったところを※、制限なしに改めた。
※ 通勤配慮者(育児/介護、障がい等)は当初から回数制限なし。

カルチャー変革を推進するためのテレワーク

テレワークを推進する目的は、働き方改革の一環ということだけではなく、社員の多様性と自主性を尊重し、自走していけるチームをつくることにあるという。テレワークガイドラインが制定された当時の状況を踏まえ、人事総務部主任の藤井沙紀氏は次のように話す。

「ガイドラインの運用が始まった2018年は、中期経営計画に基づき会社の風土改革に本格的に着手した年です。中期経営計画には『実行力の改革』が掲げられていますが、顧客のニーズにこたえ続けるために、社員の力を最大限に引き出し、実行力を高めていく必要があり、これをどう実現していくかについて様々な議論が行われました。

働き方改革についても、弊社では長年にわたり『働きがい』に関する取り組みを進めてきましたが、制度を定め、その制度に合わせて社員が働くというそれまでの運用から、最適な時間や場所、あるいはスタイル(服装など)について、各自がベストなものを自ら選択して働けるようにという方針に大きく舵を切りました。そのうちの1つが、働く場所の制限を取り払うテレワークなのです」

テレワーク・デイズへの参加を通じて徐々に浸透

ガイドライン策定後、同社のテレワークはどのように浸透していったのだろうか。

「当初は、見えない場所で仕事をすること自体に不安や抵抗を感じる人が、特にマネジャーに多かったため、マネジャーに対して、まずはテレワークそのものを前向きに検討してほしいと呼びかけました。一方で、テレワークはあくまで業務遂行のための一手段であって、新しい権利や福利厚生の一環ではないことを説明しました。また、たとえば、体調が悪いから家で寝込む傍ら時々仕事する、といったことは認められません。体調の悪い人はまず休むべきですから。そういった判断基準をガイドラインで提示し、もしテレワークにはふさわしくないと思われるケースがあれば、中止しても構わない旨を伝えました。マネジャーの心のハードルを下げる努力を、まず行ったのです」(藤井氏)

こうした呼びかけとともに、テレワーク・デイズ※への全社的な参加等により、浸透を図っていった。テレワーク・デイズの参加者は、取り組み初年度の2017年は単体で約3,000名だったのが、2018年よりグループ全体に展開し、約2万6,000名、2019年は4万1,286名にまで増加している。

なお、同ガイドラインに加えて、2020年7月には「働き方デザインブック」を発行している。

「テレワークに限らず働き方が多様化し、個々人の働き方の選択の余地は広がっています。それを自分でどう決めていいのか、基準がわかりにくいという声もあるため、守るべきポイントや考え方を盛り込んでいます。無秩序ではないということを繰り返し伝えていきたいと考えています」(藤井氏)
※ 予定されていた2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」とするもの。国・東京都・関係団体が連携して2017年より実施。

テレワーク導入の効果と課題

テレワークが業績や生産性に与える影響はどうか。同社が四半期単位で実施しているパルスサーベイによると、今年4~6月期の各事業部における業務効率化の進捗や、組織のスマートワークの実践度合いといった項目については、少しずつではあるもののポイントが上がっているという。

現場の社員からは、「仕事と家庭との両立がしやすくなった」「通勤時間がなくなった分、休息や睡眠時間をより確保できるようになった」といったメリットが聞かれる一方、やはり「人間関係の構築が難しい」「業務の進捗や心身の健康状態が見えづらい」という課題も浮き彫りになった。すでにある程度の人間関係が構築できている上司・部下のつながりはさほど問題なく維持できるものの、先輩・後輩関係や、異なる部署間の関係はどうしても疎遠になり、社内での、ちょっとした雑談から生まれるアイデアも出にくくなる。会って話す機会がほとんどないと、お互いにどんな性格なのかがつかみにくいため、特に今年入社の新入社員は、新入社員同士でも、対周囲の先輩方との関係性においても、苦労している。

また、業務の進捗や健康状態については、以前から出社して毎日顔を合わせているからといって、正確に把握できていたわけではない。つまり、もともとあった課題がテレワークを通じて顕在化しただけであり、テレワークの導入以前のマネジメントの在り方が問われているのである。

理念明文化・対話・研修によるマネジメント力強化

前述のとおり、NEC のテレワークは、組織カルチャーの変革と、社員一人ひとりが主体的に行動できるようになることが目的だ。この実現のために、マネジャー層に求められる役割は大きい。マネジメントの重要性について人材組織開発部シニアマネージャーの杉本稚代氏は、「新型コロナの影響や、テレワーク環境であろうがなかろうが、そもそもこれまでのマネジメントの在り方を進化させていかなくてはならない」と話す。

特に近年は、多様な人材が増え、働き方も個人の価値観も多様化し、終身雇用という概念も変わりつつある。組織がモノカルチャーではなくなりつつあり、またテレワークという要素も加わるなか、個人とチームを強くしていくために、NEC では、経営理念の一部である「Code of Values(行動基準)」、職場での「1 on 1ミーティング」、人事による「HR 方針」をベースとしたマネジメント力強化の取り組みを進めている。

Code of Values(行動基準)

2020年に改訂された経営理念「NEC Way」は、NEC グループが共通でもつ価値観であり行動の原点だ。企業としての振る舞いを示した「Purpose(存在意義)」「Principles(行動原則)」と、一人ひとりの価値観・振る舞いを示した「Code of Values(行動基準)」「Code of Conduct(行動規範)」で構成される。

マネジャーは、Code of Valuesに基づきながら「行動」と「成果」の2つの軸で定められた9ブロック※により一人ひとりの強みや課題を把握し、今後の育成・アサインを通じて個人の力を強化するとともに、ベストな人材をアサインすることで強いチームをつくり、グローバルで勝ち続ける組織づくりを目指す。
※ GE 社が開発した人事評価方式。縦3×横3の9つのブロックからなるマトリクス図。

1 on 1ミーティング

Code of Valuesに基づく個々の行動と成果のフィードバックを行うための対話の場として重視しているのが、1 on 1ミーティングだ。1 on1ミーティングは、最低でも3カ月に一度の頻度で行うことが推奨されており、上司と部下の間のコミュニケーション機会としてだけでなく、キャリア形成や部下の自律を促す機会にもなっている。業績結果に関しては、1 on 1とは別に半期ごとにレビューを行う。

HR方針

「人事の変革としては、『多様な挑戦機会』『限りない成長機会』『フェアな評価/次へ繋がるリワード』『ベストを尽くせる環境/文化』という4つの柱からなる『HR方針』を2019年に策定しました。この4つの柱をマネジャーがどう実践し、部下の成長を後押しできるかが個人と組織の成長の鍵ととらえています」(杉本氏)

そのためのマネジメント力を強化するトレーニングとして、約3,000名のマネジャー層を対象に、約2年をかけて研修が予定されている。

これらの施策を運用するポイントについて、杉本氏は次のように語る。

「マネジメントの在り方は、従来モデルから変化しています。プロジェクトマネジメントではなくエンパワーしていく力、つまりチームメンバーを動機づけして、彼らの成長を支援していけるかどうかです。そのためには、チームのメンバーが自身に対してどんな期待をもっているのか、マネジャーはまずそれを知り、自身のピープルマネジメントにおける強化ポイントを考える必要があります。

ただし、それはチームによっても個人によっても異なります。その現状を踏まえたうえで、日々の活動のなかで1 on 1ミーティングを実践する。そして実践したことを振り返り、同僚など横の関係で学びあってベストプラクティスを共有し、切磋琢磨する。そういう場をつくることによって、マネジメント意識を高めていくことを、予定している研修や研修後の目標にしています。

特にリモート環境においては、こうしたマネジメントの考え方をよりいっそう意識することが重要です」

Code of Values やHR方針といった理念、その理念に基づいて実施される評価、行動と成果に対するフィードバックの機会である1 on 1ミーティング。そしてテレワークガイドラインや働き方デザインブックといった「武器」は整い始めた。それらを使ってカルチャー変革をいかに加速していくかが問われるフェーズに、同社は移行している。

Learning Design 2020年09月刊