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10月09日更新

編集部より

スポーツやアウトドアにぴったりな行楽シーズンがやってきました。一方、感染症予防や台風などでレジャーに出かけることをためらう方も多いのではないでしょうか。行動を起こしたい・挑戦したいその気持ちを、「学び」に変えていきませんか? 今回は、キャリア教育研究家・橋本賢二氏による「ありたい自分を見つける学び」の記事をピックアップ。自分を振り返り、興味や自信に気付きながら、「学びの秋」を深めていきましょう。

特集│OPINION2│
まずは“自分の羅針盤”を見いだせ!
自律的にキャリアを築くため
求められる「学び」とは

不確実な現代、重要なのは一人ひとりがキャリア・オーナーシップをもち、“ ありたい自分” を見据えて自らのキャリアを拓いていくこと。
キャリア教育研究家の橋本賢二氏は、その“ありたい自分”を見つけるために欠かせないのが、「学び」だと話す。
人生100年時代を生き抜くためのキャリアと学びの関係、そして学びの在り方について、話を聞いた。

profile
橋本賢二(はしもと けんじ)氏
キャリア教育研究家

2007年より人事院にて採用試験の見直しや人事院勧告の取りまとめの担当を経て、2015年より経済産業省に出向し、産業界の成長に資する人材育成に関する施策を担当。
2018年より人事院に戻り人材確保などを担当。
2019年1月より早稲田大学WASEDA NEO講師を兼ねる。
「キャリア教育研究家」として、主に人材育成や教育を専門に、これからの時代に求められる人材像や、キャリア教育の重要性を説く講演等も行っている。

[取材・文]=平林謙治

「ありたい自分」を探すために

人生100年時代、第4次産業革命、VUCA、働き方改革――。世のなかには、「変化」を促すキーワードが溢れている。「このままでいいのか……」という漠然とした危機感も、徐々にだが確実に広がりつつある。

しかし、働き方やキャリアを巡る個々人の具体的な動きは、まだまだ活発とは言い難い。人はそう簡単に変われないのが現実だ。

「危機感による“強迫”は、個人が変わるきっかけのひとつですが、それだけではなかなか変われません」

キャリア教育研究家の橋本賢二氏はそう指摘する。

「もうひとつ、大切なのは“共感”です。世のなかで刻々と起こっている変化や課題を、ただ情報として知るだけでなく、当事者意識をもって自分ごととしてとらえる。それが自分にどう関係し、どういう影響があるのかを自覚すると、人は心から行動変容を起こします。変化に対応して動く人と動かない人との差は、その変化に当事者意識を強くもてるかどうかで決まります。そして今後、その差はますます広がっていくでしょう」(橋本氏、以下同)

橋本氏は経済産業省でキャリア教育や人材育成に関連する施策を担当し、同省が18年3月に公表した『人生100年時代の社会人基礎力』の策定にも尽力した。

「不確実な時代のなかで、唯一確かなことは、これまでのような『教育→仕事→引退』という画一的な人生のモデルが、今後も続くことはなく、どうなるかわからないということです。国や企業は、モデルを示せなくなりました。モデルがないからこそ、『自分はどうしたいか』が決定的に重要になってくる。キャリア設計や能力の開発を会社任せにするのではなく、一人ひとりが自分の在り方に当事者意識をもち、納得のいくキャリアを自律的につくっていく――いわゆる『キャリア・オーナーシップ』の涵養が求められるのです」

まずは自分ありき。社会との関係のなかで、自分はどうありたいのか。そこを突き詰めたうえで、仕事と結びつければ、働き方やキャリアの磨き方も見えてくる。自分の在り方という羅針盤を見いだすことが、人生100年時代を生き抜く第一歩になると、橋本氏は強調する。

だが、「ありたい自分」を見つけるなんて、スキルを習得するより、はるかに難しいのではないか。そう思う人もいるだろう。

「難しくて当たり前。見つからないのが普通でしょう」と橋本氏。

「だからこそ、『学ぶ』んですよ。それを探し続けるために」

リフレクションと越境学習

「ただ漫然と、ひとりで悩んでいても、『ありたい自分』は見いだせません。よくWill、Can、Mustでキャリアを分析しますが、それらは助動詞にすぎません。自ら行動する動詞をともなうことで、新しい経験や体験を積んで、得られたフィードバックから自己を客観視して、内省を深めて学びへとつなげられるのです。必要なのは具体的な行動からの学びで、まさに経験学習です。そうして絶えず行動から自分自身を振り返ること以外に、『ありたい自分』へと至る近道はないでしょう」

先述した、経産省の『人生100年時代の社会人基礎力』においても、自らキャリアを切り拓いていくためには、自己をリフレクション(振り返り)しながら、「何を学ぶか」「どう学ぶか」「学んだことをどう生かし、活躍するか」の3つの視点を意識して、行動し続けることが必要と位置づけられている(図1)

「とにかく、どんな小さなことでも構いません。自己を振り返るなかで、少しでも自信がもてるものや興味があるもの、思いの強いものがあれば、それを学べる場に出かけてみたり、面白そうな活動や集まりに参加してみたりすることをお勧めします。ふだんの職場とは勝手が違う環境にあえて飛び込み、自分とはまったく違うバックグラウンドをもつ人々と真剣に向き合う。アウェイの方が、得られる学びは深いでしょう」

橋本氏が提唱するのは、いわゆる「越境学習」の重要性だ。具体的には、地域のボランティアやNPO 活動、趣味のサークルへの参加などが挙げられる。しかし、橋本氏は「もっと身近な場所、たとえばマンションの管理組合や子どものPTA の活動でも、本気で取り組めば大きな刺激になる」と言う。

そうした“越境先”では、本業で培った社内知が通用しなかったり、逆に、社内では当たり前のスキルが予想外に高く評価されたりすることも少なくない。越境学習は、自らの強み・弱みのリフレクションにつながる。

また、企業側から見ても、社外に学びを求める越境活動のメリットは大きい。個々の社員の能力を高めるだけでなく、同質化しがちな組織に知識や価値観、人的ネットワークの多様性をもたらし、イノベーション創出の契機にもなるからだ。

「そもそも企業が社員に提供できる学びは、業務に関連するスキルを養成するものぐらいに限られます。人生100年時代に、個人が何度でも学び直しながら、生涯活躍し続ける人材になるためには、企業も、多様な働き方を認めたり、兼業・副業の解禁などを通じて、社員の越境経験を後押しすべきでしょう」

学びのハードルが高すぎる

ビジネスパーソンの「学び直し」「越境学習」というと、多くの人が第一に連想するのは、大学や大学院への社会人入学だろう。ビジネススクールやロースクールの話題も一時期、メディアにさかんに取り上げられた。

しかし、OECD 諸国(経済協力開発機構)の国際比較によると、25~64歳のうち大学などの教育機関で学ぶ人の割合は、OECD 諸国の平均が11%に達する一方、日本は2.4%と大きく下回っている(「平成30年度年次経済財政報告」より)。学びの必要性が喧伝される割に、環境が十分でないからだともいわれるが、はたして実態はどうなのか。

「環境が充実しているとは言い難いものの、私は、学ぶ側の学びへのハードルも高すぎるのではないかと見ています。お金や時間をかけないと学べないと先入観で思い込んでいる節があります。しかし、キャリア自律に資する学びの場は、はたして大学や大学院だけでしょうか」

キャリア・オーナーシップを磨くための学びであれば、その入り口は読書からでも十分と、橋本氏は言う。

「『漫画で読む○○』など手軽な本もたくさん出ています。最近は、働き方やキャリア開発に関するセミナーもあちこちで頻繁に催されています。受講費はせいぜい2,000~3,000円。月1回の飲み会や3日分ぐらいのコーヒーを我慢すれば、セミナー代も書籍代も賄えます。大学院などでの本格的な学びは、そうしたハードルの低い、小さな学びを積み重ねた先にあるものです」

ところが、全国約5万人を対象にした調査によると、1年間に自分の意思で、仕事にかかわる知識や技能の向上のための取り組み(本を読む、詳しい人に話を聞く、講義を受講するなど)を行った雇用者は全体の約3割にとどまっている(リクルートワークス研究所「2018全国就業実態パネル調査」)。大多数の人は、読書を含む簡単な学びの行動さえ起こしていないのだ。

厚生労働省の平成30年度「能力開発基本調査」でも、同様の実態が示された(図2)。前年度に何らかの自己啓発を行った労働者の割合は4割弱。その約9割の実施時間が年間100時間未満で、1日20分も学んでいないことになる。橋本氏はこうした現状を「『学びは高尚なもの』と、プライドや勝手な認識でハードルを高くして、それを学ばない言い訳にしている」と分析する。

社会の変化を自分ごと化する

キャリア・オーナーシップを磨く学びは、行動に他ならない。そうであれば、「学びのハードルが高い」と感じるのは、冒頭で述べたような、社会の変化を自分ごととしてとらえられない、当事者意識の弱さの裏返しともいえるだろう。

そこで橋本氏は、まずハードルを下げて、簡単な学びから始めてみることが大切だとアドバイスする。

「キャリア自律のための学びは行動なので、実際に頭と体を動かして、訓練しなければできるようにはなりません。なるべく行動につながる当事者意識をもちやすい身の回りの出来事や日々のニュースを自分ごと化することからでも十分でしょう」

たとえば、保育園の問題。子どもがいないから、独身だから関係ないというのではなく、自分の人生に置き換えて考えてみると、当事者意識が湧き、ものの見方も変わってくるはずだ。

連日報じられている国際情勢や政治経済のニュースにしても、そういう変化が自分の仕事やキャリアにどうかかわってくるのかという視点をもってほしいと、橋本氏は語る。

「世のなかの動きをたえず自分に引き付けて考える習慣をつけることが、社会のなかで自分は何がしたいのか、何ができるのか、『ありたい自分』を見いだす糸口になるはずです」

世界を閉じ切ってはいけない

近年は学校教育の現場でも、一人ひとりのキャリア形成や自己実現に向けて、キャリア教育が重要視されつつある。

かつて自営業比率が高かった時代の日本では、「仕事」が日常の傍らにあった。働くとはどういうことか。それが社会とどういうふうに結びついているのか。子どもは大人の働く背中を身近に見ながら、ごく自然に「キャリア教育」を施されていたのである。

「現在では、意図的に学びの環境や機会を与えなければならないほど、社会や日常生活からキャリアが分断されてしまった」と橋本氏は言う。

「それは、大人でもまったく同じなんです。国や学校が学びの機会を用意してくれない分、むしろ大人の方が大変かもしれません」

個人が企業に依存する日本型雇用システムの下では、社会からキャリアが分断される半面、個人は自ら学ぶ必要に迫られなかった。それで、長く安定してきたことは間違いない。しかし、いまは当事者意識をもち、“学びの場”を得て、自らの手でキャリアを拓いていかなければならない。

「変われ、越えろ、とどまるな」などと言われると、余計に気が重くなってしまうかもしれない。変化することはストレスなので、人が現状維持に傾きやすいのも一面の事実である。

だからこそ、「自分の世界を閉じ切らないこと」が、いま求められるキャリア自律の要諦だと、橋本氏は力を込める。

「外に向けて、窓や扉を全部開ける必要はないんです。あれも変えて、これも変えてなんてやっていたら、疲れてしまいますからね。でも、何かひとつでいいから、外とのつながりをつくっておくこと、接点を保っておくことが大切なんです。興味のあるものや思いの強いもの、かかわりの深いものでもいい。身近なところで、ほんの少しでも扉を開けておきさえすれば、そこから、“学びに向かう力”が必ず動き出していくはずです」

月刊 人材教育 2019年05月号