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06月17日更新

編集部より

今回は、新型コロナのワクチン供給で話題の英製薬大手アストラゼネカ社のダイバーシティ推進の事例記事を取り上げます。同社は2010年よりダイバーシティや女性活躍推進に注力し、2016年までで女性管理職比率を7%以上高めました(2016年時点20.8%)。「ウィメンズ・リーダーシップ・イニシアチブ(WLI)プロジェクト」を立ち上げるなど、女性たちの自信を高める取り組みを重ねてきたことが管理職比率上昇につながっています。WLIプロジェクトではマインドセットの変化を数値化し、効果を測っていました。同社の日々の活動に、こうした取り組みは少なからず寄与していることでしょう。

アストラゼネカ
マインドセットを変える取り組み
女性たちが強みを自覚し
自信を持つ「WLIプロジェクト」

アストラゼネカは、英国に本社を構え世界100カ国以上に拠点を持つグローバル企業である。
「働きがいのある職場」づくりをめざし、特にダイバーシティを重要な経営戦略のひとつと位置づけ、
推進に取り組んできた。管理職に占める女性割合が高く、
同社の日本法人であるアストラゼネカ(株)も日本企業の中では
女性が活躍する会社として位置づけられる。同社の社員の取り組みに、
女性社員が自信を持ち、リーダーシップを発揮できるように支援する
「ウィメンズ・リーダーシップ・イニシアチブ(WLI)プロジェクト」がある。


奥田あゆ美氏
人事総務本部 人材組織開発&ダイバーシティ

村尾暁子氏
営業本部 消化器・呼吸器領域 横浜営業部 営業部長

アストラゼネカ
1975年設立、2000年発足。医療用医薬品の開発、製造及び販売。「サイエンスの限界に挑戦し、患者さんの人生を変える医薬品を提供すること」をミッションに、「オンコロジー(がん)」「循環器・代謝疾患」「呼吸器」の3つの領域に注力。
資本金:20億円
日本製品売上高:21億8400万ドル(2016年度グローバル決算)
従業員数:約3000名(2017年4月現在)

[取材・文]=竹林篤実  [写真]=編集部、アストラゼネカ提供

●背景 女性たちの“自信”を引き出す

アストラゼネカ日本法人は、2010 年にダイバーシティ推進室を立ち上げ、「女性の意識改革」「柔軟な働き方を推進する制度」「経営陣のコミットメント」を3本柱として、さまざまな施策を行ってきた。その結果、2010年に12.9%だった女性管理職比率が、2016年には20.8%にまで高まっている。これは日本企業の中ではかなり高いが、部長職に占める女性の割合が40%を超えるグループの欧米拠点と比べるとまだ半分にすぎない。そこで同社は「女性リーダーを育成し、管理職に占める女性割合を2020年までに30%以上にする」ことを目標とする行動計画を実施している。

「具体的な取組内容は、部門ごとの詳細な目標設定、働きやすい環境の設定、タレント候補と管理職候補の育成、そして女性のリーダーシップ開発のためのネットワーキング支援です。

2015年時点での女性管理職比率は18.5%と、2010 年の12. 9%から5%程度の伸びにとどまっていました。そこでテコ入れを図ったのです(」人事総務本部・奥田あゆ美氏)

同社だけではなく、一般的に、女性は管理職やリーダーになるのを躊躇する傾向にあるが、それはなぜか。横浜営業部で営業部長を務め、現在WLIプロジェクト(後述)を統括する村尾暁子氏は、「そもそもマネジャーという選択肢が、自分のキャリアパスの中に存在しない女性が結構いるのです。少し考えたとしても、例えば、多くの職員を束ねていくなんて到底できそうにない、と思うのではないでしょうか」と語る。

そんな女性心理の奥に潜むのは、“自信のなさ”だ。同社では、2015年に実施した社員サーベイの結果から、女性社員が自信を持てていない現状を把握していた。

●挑戦(2014年~ 15年) WLIプロジェクトの始まり

自信を持てないために、本来の力を存分に発揮できていない女性が多数いる―この、いかにももどかしい状況をなんとか改善したいと、特に強く望む女性リーダーがいた。アメリカ出身のドーン・ディキャンディーロ氏だ。2014年にメディカル本部でシニアディレクターを務めていたドーン氏は、以前アメリカで勤務していた時に、女性の意識改革を図る取り組みを主導したことがあった。その経験を活かし、彼女は日本でも同様の取り組み「ウィメンズ・リーダーシップ・イニシアチブ(WLI)プロジェクト」を立ち上げた。

WLIプロジェクトは、女性特有の仕事でぶつかる課題について話し合い、解決策を見いだすのに加え、性別を問わずメンバーのリーダーシップを開発していく社員主導のコミュニティーである。月に1回、連動性のあるテーマについて議論して課題と改善策を考え、それを各自、所属部署に持ち帰って実践や共有を行う。

当初はメディカル部門限定の取り組みであり、参加人数も20 名程度と小規模なものだった。

「もちろん人事では、こうした動きを把握し、応援していました。やがてプロジェクトが進むにつれて、傍目で見ても明らかに成果の出ている様子が伝わってきたのです。やがて経営陣もプロジェクトの有効性を認識するようになり、2015 年度からは全社的な取り組みとして展開されるようになりました」(奥田氏)

実際、社内で告知したところ、参加メンバーは一気に75 名にまで増加。全部門から、マネジャーを含む、さまざまな階層の参加者が集まり、男性社員も少しずつ加わっていった。

「男性の一番の参加動機は、リーダーシップを身につけたいということですが、他にも、視野を広めたい人やネットワーキングをしたい人、さらには今後マネジャーとなって女性の部下を持つようになった時に備えて、という方もいます」(奥田氏)

2015 年度は、約半年間をかけて「男女の自信の差」「ネットワーキング」「リーダーシップ」などのテーマに基づきディスカッションが行われ、最終回には、学んだことを各グループが経営陣の前で発表する機会も持たれた。

プロジェクトが進むにつれ、女性がぶつかりがちな問題が共有され、女性が良きリーダーとなるために必要な考え方なども、幅広く理解されるようになっていった。最終発表会での「リーダーシップを取るうえでは、人格がとても大きく影響すると思った」「これまで、自分のブランディングというのは考えていなかったので、良い機会になった」といった参加者の感想からも、それは見てとれる。

●展開(2016年~) 「インクルージョン」への目覚め

2016年度には、参加者数が106名、男性も約1割とさらに増加。マネジャーやディレクター(部長)クラスの参加も増えた。そのため、11のグループに分かれてディスカッションを行った。

3年目ともなり、運営にも変更が出る。まずドーン氏の帰国に伴い、村尾氏が指名を受けて、プロジェクトリーダーを引き継ぐことになった。

また、ステアリングコミッティ(運営委員会)が立ち上げられ、各部門から1人ずつ選抜。役員1名を加えた合計11人のメンバーによるテレビ会議で、各回のディスカッションテーマが決められるようになった。

実際にテーマとして取り上げられたのは「自分自身の強みを知る」「自己開発に向けたフィードバックを受け取る」「女性のリーダーシップに関わる日本のトレンドを知る」などである。

7月にはビジネスリーダーとして活躍する女性講師を招いて「女性が活躍する多様性のある職場におけるリーダーシップ」をテーマとした講演会を大阪本社で開催。全国22カ所にビデオ中継も行われた。この際に講師が語った「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方は、講演の参加者に強いインパクトを与えた。ダイバーシティは、多様性、つまり個性の違いが存在すると認識することを指すが、「インクルージョン」は、その違いを尊重しながら共存していく、ということを指す。この状態をめざすべきだという気づきが、メンバーたちに起きたのである。

2016 年度の最終回では、代表者の発表に加えてネットワーキングが行われ、メンバーが全国から駆けつけた。ミーティング終了後のパーティーには、社長のデイヴィド・フレドリクソン氏も参加している。

●成果 劇的なマインドセットの変化

WLIプロジェクトの成果は、明確な数字として表れている。開始前のアンケートでは29%だった「自信の高まりを感じた」スコアが72%と3倍近くに。「自分の強みを認識できたと感じた」人は66%から90%。「以前よりリーダーシップを発揮することができた」と感じた人も、39%から76%となっている()。

「最近では、入社時からリーダーをめざすと宣言する女性も出てきていますし、徐々に、WLIや日々の業務の中でも、背中を押し続けてきた成果として“そこまで言ってもらえるならリーダーをやってみよう”と考える人が増えてきており、うれしく感じています」(村尾氏)

「これほどまでに変化するとは、正直思いませんでした。何よりの成果は、変化したのが意識だけに留まらないことです。本当にマインドセットが変われば、必然的に行動が変わってくるはずですが、実際、女性社員たちの動きは変わってきています」(奥田氏)

WLIプロジェクトによって、日常業務での工夫やリーダーシップの発揮にまつわるケース、ノウハウが、男女を問わず共有されていく。女性スタッフも、リーダーシップを発揮し、組織全体の動きが変わっていく。これまでになかったそうした動きが、着々と起きるようになっている。


■パイプライン構築

リーダーシップパイプラインの整備も、男女を問わず着実に進められている。同社では、バランススコアカードを各部門でも作成し、目標達成のために行動しているが、その行動の中に、リーダーシップパイプライン構築と後継者育成が含まれている。

「近年では特に、ラインマネジャーの皆さんに、人材開発や後継者育成は皆さんの責務であることを改めてお伝えし、日々の業務の中のフィードバックとコーチング文化による人材開発を強化しています」(奥田氏)

将来の幹部人材の特定と育成を目的とした「ダイヤモンドプログラム」も育成の取り組みの1つだ。昨年の同プログラムの参加女性は40%。部門の異なる多様なメンバーが互いに刺激し、1年間、実務・研修などを通じて、より高く広い視座を身につける。

●展望 全員がリーダーな組織へ

冒頭でも述べた通り、同社は2020年に女性管理職比率を30%にまで高める計画である。2016 年の実績は20.8%のため、毎年3%ずつ上がっていけば、2020年には30%に到達する。数字だけの辻褄合わせだけではなく、内実を伴わせる施策として、今後行っていくこととは。

「WLIや、年2回の社内サーベイ、育成施策など、今やっていることを確実にやり続けていくことが重要だと考えています」(奥田氏)

なお、女性を引き上げていくには、働きやすい環境を整備することも鍵となる。同社は、そうした「働き方改革」も強力に進めてきた。プレミアムフライデーが政府主導で始まる1年以上も前から内勤社員を対象に「ハッピーライフフライデー制度」が導入され、毎週金曜日は16時に帰ることが推奨されてきた。

また、外勤である営業職の社員には、原則18時にはオフィスを施錠する呼びかけを行っており、営業職の社員一人ひとりがワークライフバランスの課題に取り組む職場づくりを行っている。

さらに、在宅勤務の導入(対象者の8割が活用)、営業全員にタブレット端末を支給、従来は出張を伴う会議も可能な限りテレビ会議にするなど、生産性やワークライフバランス向上をめざした施策を相次いで導入してきた。ハッピーライフフライデー導入では、残業時間が1月当たり1.7 時間減ったという。広報部の池井沙織氏はこう語る。

「働き方が変わり、女性でもリーダーシップを意識する人が増えています。非常に好ましい傾向で、リーダーシップは本来、全員が発揮すべきものです。その中から本物のリーダーが男女を問わず、どんどん生まれてくる―そんな組織が理想でしょう」

「WLIプロジェクトにより、自身の考え方に自信を持って行動できる社員が増えたことは大変喜ばしく、さらにこの輪が広がり、ダイバーシティ&インクルージョンの意識が、より浸透するよう活動を推進していきます」と、今後の抱負を語る村尾氏。女性たちの自信を引き出すには、具体的な課題解決のアイデアや悩みの共有を、男性も含めて行い、そのプロセスを通じて関係性もつくっていくことが効果的であることを、同社の事例は物語る。

多くの社員が今後のさらなるプロジェクトの展開を待ち望んでいる。

月刊 人材教育 2017年07月号