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特集│CASE 1
アクサ生命保険
自ら発信する企業文化の浸透
多様な人材が当たり前に混ざり
“主体的”に個性を活かす

保険大手のアクサ生命保険では、「事業実現のためのダイバーシティ&インクルージョン」と銘打10年かけて従業員主導の体制をつくり上げてきた。
鍵は、一人ひとりが安心して「自らについて発信しよう」と思える文化・風土の醸成だ。
いかにそのような風土はつくられたのか、担当者に話を聞いた。

遠藤早苗氏 アクサ生命保険 人事部門 タレントCOE 部長
今津知子氏 アクサ生命保険 人事部門 タレントCOE カルチャー&ダイバーシティ マネージャー  







アクサ生命保険株式会社
フランスで創立し、200年以上の歴史をもつ保険・資産運用グループの日本法人。
1994年設立、2000年には日本団体生命と経営統合し基盤を拡大強化する。
多様な販売チャネルをもち、社内的課題に柔軟に対応し、個人・法人問わず多様な顧客基盤のニーズに応える保険商品やサービスを提供している。
資本金:850億円(2018年12月31日時点)
保険料等収入:6,079億円(2018年12月31日時点)
社員数:7,812名(2018年12月31日時点)

[取材・文]=田邉泰子

“属性で分断しない”考え方を徹底

「私たちは、ダイバーシティ&インクルージョンを醸成します。異なる考え方や多様な経歴/経験は、長期的な成功には欠かせないと確信しているからです」―。これはアクサ生命保険が掲げる12のコミットメントのうちのひとつ、ダイバーシティに関する項目である(図1)。

同社がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を重要な方針に据えるのには、理由がある。人事部門タレントCOE カルチャー&ダイバーシティマネージャーの今津知子氏は次のように説明する。

「アクサは、世界57の国と地域で保険・資産運用ビジネスを展開しており、多様な国々の多様なお客さまのニーズにより良くお応えするために、社員の多様性を重視しています。また、アクサのビジネスは、お客さまが自信をもって人生をお送りいただけるように寄り添い、エールを送ることです。単に保険金を支払うペイヤーではなく、パートナーとしての関係を目指しており、社員一人ひとりに、個別のお客さまに対応できる柔軟性や、幅広いニーズにお応えするアイデアが求められます。そのためには、多様性、つまりダイバーシティ&インクルージョンが必須なのです」

本格的なダイバーシティ&インクルージョンに着手したのは2009年のこと。特にアクサとしてのダイバーシティの考え方や哲学が反映されているのが、障害者の雇用である。

「当時、経営陣は、“属性で分断しない”ということを優先し、あえて障害者雇用のための特例子会社を設けない選択をしました。つまり、障害のない人とその他の人が一緒に仕事を進めていくことを原則としたということです。この方針は、今も変わっていません」(今津氏)

人事には、障害者雇用に関する知識が豊富な障害者採用専任のスタッフを配置。入社希望者の得意分野や就業上の配慮事項、過去の就業経験などを踏まえて、採用部門のニーズとのマッチングを行う。また、障害者の社員を迎えるのが初めての採用部門には、別途研修を行って、入社準備をしてもらう。

このようにフォローを行うが、採用の最終的な判断や入社後の育成責任を担うのは、あくまでも各部門である。

「専任のスタッフは採用とその後のサポーターであり、採用責任、育成責任は部門にあります。障害者の採用であっても、基本は一般の採用となんら変わらないということです。一緒に働きたいと思った部門が、責任をもって社員を採用し、大切にし、活躍できる環境を整えるというのは、アクサの一貫したポリシーです」(今津氏)

現在の障害者の雇用率は2.41%と法定雇用率を上回る水準だ。社内のどのフロアでも、障害者と健常者がともに働く光景が違和感なく浸透しているという。

障害者自らが自身について発信できる体制

障害への理解を深める施策の1つがDIP(Disability Inclusion Program)である。これは、障害をもつ社員が講師を務める研修プログラムのこと。障害のリアルや望ましいコミュニケーションの在り方を、当事者本人から直接聞くことができる。

「障害のある方が日ごろの業務で使う機材や、意思疎通で手掛かりにしていることなどを、本人が解説します。聴覚障害の方から、『話しかける時は軽く肩をたたいて』などと提案があれば、周りも躊躇なくコミュニケーションできますよね」(今津氏)

現在はオープン講座で、誰でも参加することが可能だ。この他にバリアフリー映画会や、詳しくは後述するが、社員の自主的なネットワークグループ「ERG(Employee Resource Group)」主催で開催する手話ランチ会、簡単な手話が学べる動画コンテンツなども当事者が作成して発信している。

「経営陣も協力的で、手話動画コンテンツの撮影時は、社長が動画撮影に協力し手話を教える講師となりました。また国内のブラインドサッカー(ゴールキーパーとガイド、監督・コーチが全盲のフィールドプレーヤーと力をあわせてゴールを目指す競技)を2006年から支援しており、社内に日本代表メンバーが在籍しています。シニアマネージャーが一堂に会する戦略会議では彼らがオープニングに登壇するなど、社内でも活躍しています」(今津氏)

周囲が過度に慮るのではなく、障害者自身も、ともに働く1人として、必要な主張をする。それは、「受け身ではなく自分から発信して理解を深めていく」姿勢をとり続けてきた先輩たちと、そのような姿勢を積極的に受け入れ、理解しようと努めてきた周囲の人たちの取り組みが10年続いているからこそ、根づいた文化だといえる。

「たとえばHIVに感染していることをオープンにする社員もいます。その人のことや障害、病気のことなどを知らないと誤解を生む場合があるかもしれませんが、『自分の病気はこういう特性があります』とか『薬の時間は守らせてください』など自ら発信してくれれば、みな、理解して受け入れることができます。ロールモデルがいるから、新しく入社した人も、『この会社なら自分を受け入れてもらえる』と思えます。それは今までの歴史と先輩方の蓄積かなと思いますね」(今津氏)

このような企業文化は、障害者のみならず、周りの人たちの意思疎通も明解にしている。

「障害とは関係なく、伝え方によって理解の度合いは変化しますよね。『一度に複数のことを指示するのは避けてほしい』とか『図示されるとわかりやすい』など、その人にとって望ましいコミュニケーションを伝えあっています。障害者の工夫が、健常者の利益にもつながっているということです」(人事部門 タレントCOE 部長の遠藤早苗氏)

D&Iを進める自主的ネットワーク「ERG」

同社のダイバーシティ&インクルージョンは、CEO を筆頭に経営陣も精力的にかかわる体制だ(図2)。年に数回実施される諮問委員会では、CEOと人事担当役員、数名の役員が方向性を議論し、施策の骨格をつくる。

とりわけ、同社のダイバーシティ& インクルージョンの取り組みの土台となっているのが、前述の「ERG」といえるだろう。特定の属性をもつ社員と、その属性に関心のある社員による自主的な運営が特徴であり、社員同士が自己開示しあい、悩みを解決していく場となっている。

「スタートした当初は完全なる有志活動でしたが、2017年に体制を整備しました。現在は経営陣が支援者となり会社との連携を図っていて、一定の範囲内で業務時間内での活動も認められます。上司には伝えづらい悩みや困りごとも、同じ悩みを抱える同僚がいることで理解しあえたり、改善につながったりしていて、多様性の課題を社員同士で解決できる土壌が培われています」(今津氏)

現在は、聴覚障害に女性活躍、LGBTQ+(LGBT に限らない性的マイノリティの総称)に多国籍社員のグループなど、5つのグループが活動し、情報交換やネットワーキングなどによる相互扶助、理解浸透に向けたイベントなどを行っている。

「先日の諮問委員会で、新たに介護と仕事の両立を図るERGが認められました。本社だけで見ると、ERGの認知度と参加率は高い水準ですが、全国の営業所の社員も参加しやすくなるように、昨年からERG 活動へのWeb 会議システムの導入も始めています」(今津氏)

多様な属性の人材が当たり前に混ざりあい、当事者たちも余計な気遣いや遠慮がなくなっただけでなく、会社側の「すべての社員の活躍を望んでいる」というメッセージも伝わりやすくなったという。

また、望ましい企業文化の実現に向けて旗振り役を担う「カルチャーアンバサダー」もユニークだ。各事業部門ごとに配置され、各部門トップとの距離も近いところに本気度の高さがうかがえる。

「カルチャーアンバサダーは、四半期ごとに行われるエンゲージメント調査から部や社内の課題を洗い出し、他の部門とも協力しながら施策や制度づくりにつなげていきます。取り組み開始から10年がたち、今年から全体を5つのグループに分けてより密接に情報をシェアしたり、お互いの課題を相談しあう形式を取り入れました。全体で話しあうより議論が活発になり、いろいろな意見やアイデアが出てきました。各グループには経営陣も入ることで、アンバサダーと違った視点でのアドバイスや支援につながり、複数の部門の連携機会も増えています」(今津氏)

多様なD&Iの取り組み

このような体制のもと、同社では障害者雇用以外にも、様々なダイバーシティ& インクルージョンの施策が推進されている。

■女性活躍

「社員数は男女比がほぼ同じでも、役員や管理職となると女性比が低い傾向は他社同様にあります。そこで女性社員への機会提供を増やすと同時に、職場とマネジメント層、そして女性社員本人の意識改革につながる取り組みを進めてきました」(今津氏)

現在は年に一度のカンファレンスに、経営陣をロールモデルとしたトークイベント、ERG の活動など、複数の施策を並行している。

注目は、女性社員の管理職登用を支援する「スポンサーシッププログラム」である。管理職としてのポテンシャルをもつ女性をターゲットに、2年間かけて育成支援するしくみだ。対象者には経営陣がコーチ役に就き、それぞれのニーズに合わせて個別にフォローしているという。

■LGBTQ+

理解浸透には、前述の「ERG」の協力が欠かせない。カミングアウトした社員が中心となり、情報発信に努める。営業部門では経営陣と当事者社員との座談会映像を制作し、LGBTQ+をより身近なものとして伝えている。

「保険商品のコンサルティングや保険契約者向けのサービス登録の際に、同性パートナーも選択可能にするなど、当事者社員の指摘でサービスが改善された例もあります」(今津氏)

■多国籍社員のERG「国際通り」

外国人社員の多い同社では、日本語だけでなく英語も使用する。社内の発信ひとつとっても、日英対応の要・不要が検討されるシーンが多い。ERG 活動では、在籍社員の出身地にまつわるクイズ大会を交えたイベントや、海外勤務の社員によるディスカッションなどが催されている。

変革への参画を楽しめる環境に

ダイバーシティ& インクルージョンの施策を進めることで、具体的な効果も表れている。たとえば同社では、部下をもつ管理職(内勤社員)の女性比率が2013年1月の17%から2020年1月には26%に増加した。ロールモデルが顕在化すると取り組みも加速し、よい循環が生まれているという。

さらに多様性を強みに変え、事業やサービスに取り入れている。先の同性パートナーの例の他、聾の社員の提案で、耳の不自由な人への遠隔手話サービスの導入も実現した。

「こういう声が新たな気づきをもたらしてくれますし、私自身、そのような気づきをもらえる会社で働ける喜びを感じています。これからも、社員の声をできるだけ経営に反映していきたいです」(遠藤氏)

何より注目したいのは「活き活き働く社員」が増えていることだ。社員自身が活動を楽しみ、変革の主体者であるという自覚をもっているのである。事実、ERGに参加する社員は、エンゲージメント調査のスコアが全体的に高いという結果も出ている。

同社の取り組みからは、違いを認めあい受け入れる文化とは、社員が主体となって“働きづらさ”を解消し、それぞれの個性を活かすことだと気づかされる。

「完璧な人などいないので、お互いが強みと弱みを支えあって、いい会社に、いい社会にできたらという、ミッションのようなものは皆感じていると思います。そういうスピリットは大事にしていきたいですね。活き活きと働いている人たちの表情を、ぜひ見てもらいたいです」(遠藤氏)

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