J.H.倶楽部 情報・交流・相談の場を通じて、
HRMの未来をともに描く
× 閉じる

Recomended Archive 過去記事ピックアップ

03月18日更新

編集部より

4月から新年度が始まります。コロナウィルスの影響で入社式などにも影響が出ていますが、新入社員には少しでも早く一人前となってもらえるよう、育成していかなければなりません。そこで注目したいのが「習慣化」です。どうすれば教育を受けた内容をすぐに実践し、習慣として身につけていくことができるのか。そのためには、企業側もただ「教える」にとどまらない工夫が必要です。今回は、2017年4月号の特集「新入社員の“よい習慣”づくり」より、習慣化コンサルタントの古川武士氏の記事をご紹介します。ぜひご覧ください。

OPINION1
フィードバックの
ゴールデンタイムは、1週間以内
新入社員の“習慣化”に
必要なのは
行動の具体化と十分なフォロー

「新人に、早く良い習慣を身につけさせたい」―。
多くの人事・教育担当者や現場管理職が、そう考えて教育を行っているはずだ。
だが、いったいどれだけの新人が教えられたことを実践し、習慣として身につけることができているのか。そこにたどり着くには、企業側にも“ 教える”にとどまらない工夫が必要だろう。
新入社員の習慣化に必要なことは何か。「習慣化コンサルタント」として、社員教育の定着化支援や働き方改革コンサルティングを行う古川武士氏に、そのポイントを聞いた。


古川武士(ふるかわ たけし)氏
習慣化コンサルティング 代表取締役

関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006 年に独立。約3万人のビジネスパーソンの育成と1000 人以上の個人コンサルティングの現場から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。
法人向けには、定着を強みにした働き方改革コンサルティングを行っている。著書は16 冊あり、海外でも広く翻訳されている。

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=古川氏提供

ビジネスは習慣でできている

ビジネス能力のほとんどは、“習慣”によって成り立っている。

例えば、PDCAを回す習慣がある人は、計画を立ててから仕事に着手し、結果を振り返って、次の行動に活かす。その習慣がない人が同じことをしようとしても、簡単にはできない。

コミュニケーションも習慣だ。結論から話すのか、背景から話すのかといった話し方の特徴は、その人の習慣によるところが大きい。報連相(報告・連絡・相談)の仕方もそう。メールチェックのタイミングやメールの書き方にも、その人の習慣が表れている。午前中に何をするかも習慣。会議の議事録をその日のうちにまとめるのも習慣。申請書の書き方も、書類のフォルダの保存の仕方も、アポイントの取り方も習慣だ。我々の仕事の8割以上は、習慣から生まれた結果と言ってよい。

働き方の習慣は多種多様で、個々人が、良い習慣も悪い習慣も数多く身につけている。しかし、特にホワイトカラーの場合、上司も細かいところまで介入してこないので、周りがどうやっているかも知らないし、そもそも、その行動が自分の習慣だという認識すらない。

習慣というのは、自然と繰り返している限り、苦労せずに続けることができる。なぜなら、我々の脳には、一度習慣化したことを自動的に繰り返そうとする機能があるからだ。例えば、寝る時間、起きる時間にしても、意識しなくても毎日の生活のリズムによって大体、決まった時間に寝て、決まった時間に起きるものだ。

だが、いったんこうした“自動運転”の状態になると、変えようと思っても容易には変えられない。脳にとっては良い習慣も悪い習慣もなく、新しい変化に抵抗し、いつも通りの状態を維持しようとする。私はこれを「習慣引力」と呼んでいる。

習慣化は新入社員のうちに

したがって、良い習慣を身につけさせたいなら、まっさらな新入社員のうちに行うのが一番だ。自分なりのやり方ができあがってしまうと、古いものを置き換える際に「習慣引力」が働く。新入社員は、いわば“初期インストール状態”にあるので、新しい習慣を吸収しやすい。

ところが、多くの企業の新入社員教育は、“習慣化”に対する意識が薄い。必要な知識やスキルは教えるが、それを習慣として定着させる仕組みがないのだ。物事の理解度をレベル1:分かる、レベル2:できる、レベル3:実践する、レベル4:習慣化する、レベル5:教える―に分けた場合、集合研修の場でできるのは、レベル2まで。職場での実践を促し、習慣化させるには、それなりの仕掛けが必要だ。

また、現場のOJTで上司が新人を指導する時も、望ましい行動を習慣として身につけさせることができているかというと、残念ながらそこまで至っていないケースが多い。できていない結果を叱るだけでは、習慣化は進まない。

では、どうすればレベル4:習慣化する、に至ることができるのか。その前にまず、私が考える習慣化の3つの分類について説明する(図1)。1つは行動習慣。日々の日課や行動面の習慣であり、PDCAやタイムマネジメント、勉強の習慣などがこれに当たる。2つめは身体習慣。早起きや運動など体のリズムに関わる習慣で、コミュニケーションもこれに含めてよいだろう。3つめは思考習慣。物事をどう捉えるかといった考え方に関わるもので、ポジティブ思考や問題解決思考などがあたる。

行動習慣、身体習慣、思考習慣の順に習慣化は難しくなり、身につけるまでに必要な期間は長くなる。だが、どのレベルであっても、本人の性格や能力に関わらず、“技術”によって、意図的に身につけさせることができる。以下、ポイントとなる点を解説しよう。

行動を具体化する

習慣を身につけさせるうえで最も重要なのは、習慣化すべきことを行動レベルに落とし込むことだ。上司や人事部門が、具体的な行動とタイミングを定義して本人に示す必要がある。

営業部門に配属された新入社員に、「お客様のところに伺う時は、事前に準備してから行け」と言っただけでは、事前に準備する習慣を身につけさせることはできない。では、どうすべきかというと、例えば、過去の取引を調べる、先方のホームページを見て事業の現状を確認する、自分なりにどういう商品が勧められるか仮説を立てる、の3つの行動を行うと決め、顧客訪問の前に、その内容を上司にメールさせる。そこまで決める必要があるのだ。

行動が具体的になると、人は自然とスイッチが入る。したがって、その人が「これならできそう」「やってみたい」と思えるところまで具体化することが重要である。

「お客様のニーズをきちんと把握する」「PDCAを心掛ける」「積極的に会議で発言する」……どのアクションプランも、心意気は分かるが、何をどうするかが具体的でない。具体的でなければ、習慣化はできない。

上司は、「背中を見て覚えろ」ではなく、どういう行動をどういうタイミングで行うべきかを具体的に示す必要がある。新入社員研修の内容を共有し、研修で習った枠組みでフィードバックしてあげるのもいい。「研修でこう習ったよね」と説明すると、新入社員も理解しやすく、習慣化が進みやすい。また、先ほどの営業部門のようなケースでは、何をすべきかを本人に考えさせてみるのもよいだろう。

継続的にフォローする

もう1つ重要なのが、習慣化するまで、上司や人事がフォローすることだ。望ましい行動を習慣化させるためには、一定期間繰り返させて、行動を絶やさないことが重要だ。日常業務に忙殺される中でも継続させるには、本人任せにするのではなく、継続的なフォローが欠かせない。

特に新入社員の場合、何が良い習慣なのかが分かっていないことも多いので、上司によるフィードバックがより重要といえる。繰り返しフィードバックする過程で、上司の考え方、思考習慣を伝えることもできる。

ポイントは、十分な頻度でフォローすること、結果にこだわり過ぎないこと、モチベーションに配慮することだ。

私の働き方改革コンサルティングでは、研修の翌日から毎日、受講生に「時間簿」を付けて送ってもらうことにしている(図2)。これにより、タイムマネジメントの習慣がつく。研修後のフォローは、期間を置いてから実施する企業が多いが、習慣化のためのゴールデンタイムは研修直後の1週間。それを逃すと、ほぼ絶望的と思ったほうがいい。

こうした日々のフォローは、人事部門が行うこともあれば、職場の上司を巻き込む場合もあるだろう。ただし、職場の上司に任せる場合も、全て現場任せにしてしまうと、上司の質によって差が出てしまう。そうならないように、人事部門が、こうしたテンプレートやツールを用意して提供するとよい。

結果にはこだわり過ぎないというのも、大事である。初期段階で意識すべきなのは行動が発動されているかどうかだ。「部下の習慣が身につかない」と嘆く上司は多いが、「繰り返しできているか」と「うまくできているか」は区別したほうがいい。行動を繰り返させること自体は、実はそれほど難しくない。

“褒める”フィードバックを

時間簿の例でいえば、最初のうちは、タイムマネジメントが改善していなくても、毎日、部下が時間簿を書いて提出するだけで褒める。細かくスケジュールを立てず、朝から夕方までの欄に「仕事」と書くだけでも構わない。続けていれば、自然と精度が上がっていくものであり、結果は後からついてくる。最初から理想的な形を求めるのではなく、“ ベビーステップ”(赤ちゃんの一歩)から始め、気軽に取り組めるようにする。慣れてきたら、「もっとこうしたら」と質の面のフィードバックを加える。そうすることで、本人もマンネリ化しない。

フォローをする時は、なるべく褒めること。他者と比較するのではなく、「1週間前と比べて、こんなにできるようになったね」「もっとこうなるといいね」と、その人の過去や理想の状態と比較してフィードバックしてあげよう。

新入社員が身につけるべき習慣にはさまざまなものがあるが、一度に取り組むテーマは、3つくらいに絞ったほうがいい。例えば、「話す内容を整理して報告に来る」(ロジカルシンキング)、「前日に翌日の計画を立て、帰る前に振り返りをする」(PDCA)といった辺りから取り組んでみてはどうだろう。

フォローをする期間は、1カ月程度でよい。一度習慣化すれば、頻繁にフォローしなくても大丈夫だ。次の習慣、次の習慣と、新たな習慣に挑戦させていくとよいだろう。

風土や上司・先輩の影響も

行動習慣を身につけさせるには、具体的な行動とタイミングを定義することが重要だが、思考習慣の場合は少し異なる。思考習慣には2種類あり、問題解決思考のようにツールやテンプレートに落とし込みやすいものと、失敗をどう捉えるかといった、ツールなどの形にしづらいものがある。

前者については、なるべくツール化・仕組み化したほうが、定着させやすい。例えば、トヨタ自動車では「、なぜ、なぜ、なぜ」と考える際のテンプレートがあり、その枠組みに沿って書いていくと、自然と「なぜ」を繰り返す仕組みになっている。

後者については、日常業務の中で指導したり、飲みの席でフォローしたり、組織風土から吸収してもらうことになる。人がどのような思考習慣を身につけるかというのは、周囲の影響が大きい。A社にいればA社らしい社員になるし、B社にいればB社らしい社員になる。したがって、人事部門としては、風土づくりや、新入社員に良い先輩をつけることも重要だ。新入社員は、吸収しやすいが故に良い習慣も悪い習慣も取り込んでしまう。良い先輩から良い習慣をコピーできるよう、環境を整えてほしい。

個人で取り組ませる場合は

ここまで、上司や人事部門が習慣化に関わるケースを見てきたが、自己啓発のように、社員が自分自身で習慣化に取り組むこともあるだろう。

自分で取り組む場合は、緊張感や強制力が働きにくいので、習慣化が難しい。①すぐにやめたくなる「反発期」、②予定や人に振り回される「不安定期」、③徐々に飽きてくる「倦怠期」の3つのステップを乗り越えるために、それぞれ工夫が必要となる(図3)。

ただし、重要なポイントは、既に説明した、上司や人事が関わる場合と共通する点が多い。

まずは、習慣化したい行動とタイミングを具体化する。なるべく、時間・やり方・場所を決めてパターン化するとよい。そして、“ベビーステップ”から始めて、毎日続けることを重視する。モチベーションを高めるには、1人で取り組む場合も、何らかのフィードバックがあるとよい。誰かに褒められたり、皆に宣言をして後に引けなくするなど、モチベーションを保つ自分なりの方法を考えてほしい。

自分の意志で良い習慣を身につけられるようになると、習慣化する力そのものが高まるので、積極的に取り組ませるとよいだろう。

習慣化を意識した教育を

だが、研修で学んだことをいかに習慣化できているか、という実態に目を向けることは、人事部門にとって、勇気がいることかもしれない。私の経験では、研修で学んだことを1週間後に実践している割合は、よくて3割。1カ月経つと、3%にまで低下する。人事の方の肌感覚としても、大体そんなものだろう。

研修直後のアンケート結果だけを見て満足し、「良い習慣を身につけさせるのは、現場の役目」と捉えていたほうが楽なのは間違いない。しかし、それでは、現場での実践率は低いままだ。

なぜ習慣化させることが大事かというと、結果に再現性を持たせるためだ。良い行動が習慣化すれば、良い結果が生まれやすくなる。若手のうちにどういう習慣を身につけさせるかで、その人のその後の成長やパフォーマンスが大きく変わってくる。ぜひ“、習慣化”という視点で自社の教育の在り方を捉え直し、責任感を持って、人材育成に取り組んでいただきたい。

月刊 人材教育 2017年04月号