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11月7日更新

編集部より

ラグビーW杯の日本代表、素晴らしかったですね。すっかり“にわか”ファンになってしまいました。ラグビーといえば『Learning Design』の前身『月刊人材教育』2015年7月号では、ご自身も現役時代、海外でプレーされていた岩渕健輔氏(現・日本ラグビー協会専務理事)に、「世界で勝てる選手の要件と育て方」を取材しました。「ブライトンの奇跡」の直前で、エディー・ジョーンズ監督の時期です。記載されている「2019年のW杯の目標」には惜しくも到達できませんでしたが、日本代表の強さの秘密がわかります。

Column2
~日本ラグビー界の
リーダーに聞く~
世界で勝てる選手の
要件と育て方

多くの日本人スポーツ選手が海外で活躍するようになって久しい。
スポーツの世界、それも国際的な舞台で日本人が結果を残すためには、どんなマインドセットが必要なのか。若い頃から育成できることとは。
自身も現役時代、海外でプレーした経験を持ち、現在はラグビー界の人事や次世代の選手の育成を担う、岩渕健輔氏に聞いた。

岩渕 健輔 氏
日本ラグビーフットボール協会 日本代表ジェネラルマネージャー
1975年、東京都生まれ。小学生の時にラグビーをはじめ、青山学院大学在学中に日本代表初選出。卒業後の1998 年、神戸製鋼入社後、ケンブリッジ大学に入学。2000年に退社・卒業しイングランドプレミアシップのサラセンズ入団。その後サニックスやフランスのコロミエ、7人制日本代表の選手兼コーチなどを経て、2009年に日本協会入り。
2012年より現職。現役時代のポジションはスタンドオフ。日本代表としてテストマッチ通算20試合に出場。

[取材・文]=Top Communication [写真]=日本ラグビーフットボール協会提供、菊池壯太

ラグビー界のダイバーシティ

私は2012年から、日本ラグビーフットボール協会で日本代表チームのジェネラルマネージャー(GM)を務めています。2016年のリオ五輪から正式競技となる7人制(※)と女子のチームも含め、全ての「日本代表チーム」の強化に関する編成と人事を任されています。

日本のラグビー界はこれからの数年間、非常に重要な期間を迎えます。

15人制のほうは、今年9月にRWC(ラグビーワールドカップ、以下略)のイングランド大会が開催され、4年後の2019年には、アジア初となるRWCがこの日本にやってきます。7人制は2016年のリオ五輪を経て、2020年の東京五輪へとつながっていきます。

こうした中、現在の日本代表チームのスタッフには、オーストラリア人のヘッドコーチ(監督)をはじめ、イギリス人やフランス人がいて、選手にはニュージーランド、オーストラリア、トンガの出身者がいます。まさにダイバーシティであり、彼らを交えた「日本代表」が世界を相手に戦っているのです。

多くのスポーツでは、その国の国籍を取得しないと代表チームに入れませんが、ラグビーの場合、その国で3年間プレーするなど一定の条件を満たせば代表チームの一員になることが認められています。ニュージーランドやイングランドといった強豪チームでも、その国のネイティブではない選手が活躍していることも多いのです。

多様な背景を持つさまざまな国の出身者が、母国ではない国の代表として誇りを持って戦う。これがラグビーの魅力の1つでもあります。

まずはコミュニケーション

そして、野球やサッカーのように、ラグビーでも日本人選手が数年前から海外で活躍するようになりました。

「スーパーラグビー」という、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカのクラブチームが戦う南半球のリーグでは、2015年のシーズンは6人の日本人選手がプレーしていますが、試合にコンスタントに出られなくて苦労している選手が多いのが現状です。単純に実力だけではなく、人間関係にも問題があるのです。

ラグビーというスポーツは、1チーム15名、計30名の選手がピッチ上で1つのボールをめぐって争うスポーツですが、野球などと異なり、チームメートにボールを回してもらうことで初めて選手は活躍できます。しかし、海外のチームでは特に、周りの選手たちとしっかり信頼関係が築けていないと、ボールを回してさえもらえないのです。

信頼を得るためには、プレー以前に、周囲とコミュニケーションをとらなくてはなりません。ミーティングや練習の最中、あるいはクラブハウスで仲間と食事をとる時などに、積極的に関わろうとしたり、ラグビーに対する自分の考えをはっきり表明したりすることです。人間関係、信頼関係はそこから築かれますから、それなしにどれだけ練習しても、試合でボールは回ってきません。

日本人の場合、言葉の障壁があるとよく言われますが、たとえカタコトでも、わかってもらおうとすれば気持ちは必ず伝わります。野球(ブルージェイズ)で活躍中の川﨑宗則選手がいい例です。必死にチームに溶け込もうとしている姿勢が伝わってきます。

本来のコミュニケーションは、語学力とは別次元です。最初にそこを突破できるかどうかが、海外で活躍できる最低の条件なのです。

日本の「和」と無責任

日本人選手が自分をアピールできないのは、育った環境や文化の違いもあるでしょう。

私が現役時代にイングランドやフランスでプレーして思ったのは、海外では「個」を非常に重視するということでした。だからといって、わがままというわけではありません。メンバーはみんな育ってきた環境や社会背景が違うので、考え方が異なって当然なのです。それを前提にラグビーチームも社会も構成されています。

一方、日本では、個よりも組織やチームが優先されがちです。しかし、それを前面に押し出し過ぎて、個々のプレーヤーが無責任になっているようにも感じます。チームの歯車になるだけで満足し、本当に勝つために自分が責任を持って貢献するという気持ちが乏しいように思うのです。

外国の選手は、一つひとつのプレーに対して、その意図や背景を必ず伝えようとします。例えばプレー中に「なぜキミはこうしないのだ」と誰かが問えば、その選手は「オレはこう判断したからだ」とはっきり答えます。口論になることもよくありますが、それは勝つために、その人なりの考えを懸命に伝えようとして熱くなるのです。

一方、日本人選手は何か批判的なことを言われると、大抵「はい、すみません」と言うだけで、自分の判断について明確に説明することはありません。和を乱すことを恐れているのかもしれませんが、選手はプレーに対して責任を持たなければいけません。

「勝つ」ことへの責任

「責任」という点で面白いエピソードがあります。現在のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズの就任1年目、日本代表がフレンチ・バーバリアンズというチームとの試合で大敗した時のことです。

相手チームは、実力的にはフランス代表の2ランクくらい下でしたが、それでもかなり強いチームです。客観的に見て、当時の日本代表の実力では勝つのは難しかった。ですから試合後は、選手もメディアも「大敗したが、ある程度は健闘した」という雰囲気でした。

しかしジョーンズは違いました。試合後にものすごい剣幕で怒ったのです。

オーストラリア人のジョーンズは、母国の代表チーム「ワラビーズ」でヘッドコーチを務めた経験もある人です。ワラビーズは常に世界トップ5に入るチームですから、勝つことが彼の 「スタンダード」なのです。

彼は、どんな相手であれ、勝つことを前提に試合に臨むことが代表チームの責任であると強く意識しています。だからこそ、負けたことを選手も周囲も受け入れているようなムードが許せなかったのでしょう。ジョーンズと日本人選手とのマインドのギャップがあらわになった一件でした。

2019年、ベスト4へ向けて

そのジョーンズのもと、今の代表チームはかつてないほどハードな練習を積んでいます。なぜかというと、体格に劣る日本代表が「勝つ」責任を果たすためには、世界で一番、練習しなければならないと確信しているからです。ジョーンズと私は、それを明確にチームに伝え、実行しています。

成果も着実に現れています。ウェールズ、イタリアといった格上チームからの勝利を含め、2012年から14年までのテストマッチ(国代表同士の対戦)で11連勝を記録し、15位前後だった世界ランキングも9位まで上がりました(2015年4月現在は11位)。ジョーンズがヘッドコーチに就任した際に掲げた「10 位以内」という目標はクリアしたので、2015年のRWCでは大会ベスト8、2019年の日本大会はベスト4というのが目標です。これは、過去7回行われたRWCで1勝しかしていない日本代表にとって大変難しいことですが、そういう目標設定がなければ、代表チームで戦う意味がありません。

より上をめざすには、チームと個人の目標を高く厳しくして、それが当たり前の自分たちの「スタンダード」と捉えることが必要なのです。

若い時からスタンダードを高く

4年後のRWCでベスト4に入るという目標を達成するには、当然、若い世代の育成が重要になります。そして彼らがグローバルな舞台で活躍できるかどうかにも、先ほどから述べている「スタンダード」がカギとなります。

先に触れた日本代表チームのハードな練習とは、毎朝5時から、1日に3、4回というものです。少し前まで、社会人よりも学生のほうが練習は厳しいと言われたものですが、今は日本代表のほうが圧倒的にきついのです。現代表には大学生も何名かいますから、こうしたハードな練習が大学時代からスタンダードになれば、自分の大学チームに戻った時「こんな甘い練習で勝てるわけがない」と思うようになるでしょう。

ラグビーであれビジネスであれ、グローバルで活躍するためには、早い時期から高いレベルを経験し、スタンダードとして定着させることが肝要です。それができれば、さらなる高みへと進んでいけるのではないでしょうか。

※7人制(セブンズ) ラグビー:グラウンドのサイズもルールも15人制のゲームと実質的に同じだが、1試合7分ハーフで行われ、1日に数試合行い、概ね2日間で大会が終わる。国際大会も盛ん。

月刊 人材教育 2015年07月号