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特集│社員に愛される会社とは│Chapter1│ OPINION
個々が尊重され、
やりがいを感じながら
働くことが大切 「幸福度」と
「パフォーマンス」の関係に注目
“幸せな社員”が強い組織をつくる

社員に愛される会社には、どのような特徴があるのだろうか。
幸福学を専門とする慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏に、18~24ページの調査結果の総括とあわせて話を聞いた。


profile
前野隆司(まえの たかし)氏 
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授

1962年山口生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン入社。
その後、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年より同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。
著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房)、『幸せな職場の経営学』(小学館)など多数。

[取材・文]=谷口梨花

“会社との関係性”が会社の好き嫌いを左右

今回の調査において、会社が好きかどうかと比較的高い相関が見られたのは、仕事や職場、事業やサービス、企業理念や経営層、上司やチームに関する項目であった。なかでも相関が高かったのが、仕事や職場の状態。現在の自分の仕事が好きでやりがいを感じている人や、職場の居心地が良く温かい雰囲気に満ち溢れていると感じている人は、会社が好きだと回答している。また、企業理念や経営層、上司は、同僚以上に会社の好き嫌いに影響していることもわかった。

以上のような結果から、仕事への満足度や職場の居心地の良さ、事業やサービスへの愛着、経営層や上司への信頼といった要素が、会社の好き嫌いに影響を及ぼしていることがわかる。これらの指標は“会社との関係”を表す指標であり、その指標同士も互いに相関し合っているといえるだろう。

“個人の生き方”も会社の好き嫌いに影響

会社との関係性が会社の好き嫌いに影響しているということは、ある程度予想されることだといえよう。今回の調査で特に私が注目したいのは、「幸福度」という観点も、「会社が好き」と相関があるという結果が出たことである。

幸福度という指標は、会社との関係性とは異なり、個人の生き方に関係するものだ。組織運営や経営の観点からは、従来あまり触れられてこなかった領域といえるだろう。しかし、社員に愛される会社になるためには、社員が仕事や職場に満足し、上司やチームと良好な関係を保つことができているのみならず、社員一人ひとりが幸せであるべきだということが明らかになったのである。

私が専門とする「幸福学」は、幸せに生きるための考え方や行動を科学的に検証し、実践に活かすための学問である。組織の在り方が大きく変化しつつある昨今、幸福度は組織運営や経営面からも重要な指標になりうる。実際に、幸福度が高い社員は低い社員よりも創造性が3倍高く、生産性も31% 高くなるということが知られている※。詳しくは後述するが、今回の調査でも、個人のパフォーマンスと幸福度には、高い相関が見られた。

つまり、社員一人ひとりが幸せで生き生き働くことは、会社にとっても、社会や個人にとってもメリットが大きいといえるということだ。そもそも人は幸せに生きるべきであるが、あらゆる組織も社員と社会の幸せを最優先することを考えるべきであろう。
※心理学者ソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究。

社員の幸福度を測る意義

幸福度について詳しく解説する前に、まずは「幸せ」について考えてみよう。

幸せには、長続きしないものと、するものがある。長続きしない幸せとは、「お金」や「モノ」、「社会的地位」といった、他人と比較できる幸せである。一方、長続きする幸せとは、愛情や健康、自由など他人とは関係なく得られる幸せである。戦後の高度成長期からバブル期ごろまでは「お金」や「モノ」、「社会的地位」などに幸せを感じる人が多かったが、震災などを経てそれらに本質的な幸せは見いだせないということに気づく人が増えてきたのではないだろうか。

幸せを英訳すると「happiness」という単語をイメージする方が多いと思うが、「happiness」は「幸せ」というよりも「うれしい」などの短期的な感情の意味合いが強い。それよりも「wellbeing」がもつ意味に近いと考え、私は「幸福学」を「well-being study」ととらえている。

人は幸せに生きるべきというのは誰もが同意するところだと思うが、組織に「幸せ」という観点を取り入れている企業は、まだまだ少ないのが現状だ。それは、幸せの感じ方は人それぞれなので、幸福度は測ることができないと思われていたからだろう。

「従業員満足度」調査をしている企業は多いが、従業員満足度は職場環境や福利厚生といった部分的な施策に対する満足度調査である。それに対して「幸福度」調査は、ワークもライフも含めた全体を測るものである。全体的な概念であるため測定が難しいと思われてきたが、1980年代から幸福度調査の研究が進められ、近年では幸福度は様々な場で測定されている。

そのなかでも定評のある指標の1つが、アメリカ・イリノイ大学心理学部名誉教授、エド・ディーナーらが開発した「人生満足尺度」である。5つの質問に対する回答の合計から人生満足度を測るというものであり、簡単にできるが「幸せの形」を可視化するものではない。

そこで我々は、どういった状態が幸せといえるのかといった幸せの心的特性の全体像を明らかにするために、日本人1,500人に29項目87個の質問を行い、その結果から人が幸せになるために必要な「4つの因子」を導き出した(図1)。その4因子について、解説しよう。

幸せを構成する4つの因子とその高め方

●第1因子「やってみよう!」因子

「やってみよう!」因子は、自己実現と成長の因子だ。自分なりの能力や強みを生かせているか、社会の役に立っているかなど、成長し続けていることを実感することで幸せを感じることができるという意味合いの因子である。仕事においても、やらされているのではなく、自分の強みを生かして生き生き働いている人は幸せだといえるだろう。

「やってみよう!」因子を高めるには、社員一人ひとりの強みや能力が生かせて、成長し続けていることを実感できるような機会をつくるといい。たとえば、自分の強みを磨く研修などもお勧めだ。また、やる気を高めるために、積極的に権限委譲を行って任せてみることも効果的だ。

●第2因子「ありがとう!」因子

つながりと感謝に基づく因子が「ありがとう!」因子だ。誰かを喜ばせたり親切にしたりされたりといった、他者とのつながりによって幸せを感じることができるという因子である。社内外の人間関係が良好で、感謝に溢れている職場で働いていると、人は幸せを感じやすいということだ。

「ありがとう!」因子を高めるには、まず人間関係を良くする必要がある。定期的に1on 1を行うのもいいだろう。また近年少なくなっている社員旅行や飲み会なども、「ありがとう!」因子を高めるためには有効だといえる。

●第3因子「なんとかなる!」因子

前向きさと楽観性の因子であり、幸せであり続けるために非常に重要な要素である。困難なことが起こっても「なんとかなる!」と楽観的にとらえ、自分や他人を否定するのではなく受容できることを表すこの因子は、幸せのために必要不可欠といえるだろう。

この因子は、リスクをとって新しいことにチャレンジすることが推奨されている環境で高まりやすい。したがって、新規事業提案制度などをつくり、応募を推奨することが、「なんとかなる!」因子を高めることにつながるだろう。

●第4因子「ありのままに!」因子

最後の因子は、独立と自分らしさの因子である。人の目を気にして、「お金」や「モノ」、「社会的地位」ばかり目指すのではなく、ありのままの自分を受け入れ、自分らしい人生を送ることが幸せにつながるということである。

「ありのままに!」因子を高めるには、ありのままの自分を受け入れ、自分らしい人生を描いていくことを支援するのが有効だと考えられる。ボランティア休暇制度も一案といえるだろう。

このように、人それぞれであると思われていた幸せの要因は、4つの因子から構成されることが明らかになった。この4因子をバランスよく満たすことができれば、より幸せになれるということだ。27ページ図2には、4つの因子の具体的な質問を掲載している。ぜひ自身の幸福度をチェックしてみてほしい。

「幸福度」が個人のパフォーマンスを高める

今回の調査では、会社の好き嫌い以外にも、幸福度と相関が見られた項目がいくつかあった。なかでも、個人のパフォーマンスと幸福度は、高い相関が見られ、幸せな社員は高い成果を出していることが明らかになった。

社員や会社の幸福度と会社の業績が比例することは、私自身様々な組織を見てきて実感することである。一般的には、個人のパフォーマンスは教育・研修や報酬・評価、働き方に関する制度などが影響すると考えられがちだが、それらは相関がさほど高くないことがわかる。

余談になるが、昨今話題になっている「働き方改革」で、時短による効率化や生産性向上を目指している企業は多い。しかし、調査の結果を見るとフレックスタイムや在宅勤務など働き方改革で多くの企業が推進している制度は、個人の生産性にはあまり影響していないことがわかる。

今回の調査結果からは、個人のパフォーマンスを上げるためには、仕事で強みを生かせるようにしたり、自分の仕事が認められていると感じさせられるような工夫がもっとも効果的であることがわかった。また、社員の幸福度を高めることも重要であることが明らかになった。

チームと個人の両面からパフォーマンスを高める

特に興味深かったのが、チームのパフォーマンスは、個人のパフォーマンスよりも、幸福度との相関が高くなかったことだ。チームでパフォーマンスを上げることと個人でパフォーマンスを上げることは一見似ているように思えるが、実際は違うようなのである。チームのパフォーマンスには、個人の幸福度よりもチームや職場、上司や同僚が与える影響の方が大きいのだ。

この結果から、チームで協力してパフォーマンスを上げるという「集団主義的な側面」と、個人で頑張ってパフォーマンスを上げて個人が幸せであるという「個人主義的な側面」という両面の存在が浮き彫りになったといえるだろう(図3)。会社としてはこの2つを切り離すのではなく、チームと個人両方のパフォーマンス向上を目指すべきである。

チームとしてパフォーマンスを上げるためには、チームや職場の雰囲気の向上や、上司や同僚との信頼関係の形成などに重点を置いて取り組めばいいだろう。それは、「社員に愛される会社」にもつながってくる。

同時に、個人がパフォーマンスを上げるためには、個人が幸せになるような支援も行うべきだろう。会社としては仕事や職場に関する取り組みの方が手を入れやすいかもしれないが、個人を尊重し、個人の幸福度を高めていくことも忘れてはならないということだ。

社員が幸せで愛される会社になるために

今回の調査結果からもわかるように、幸福度は個人の幸せにとどまらず、会社の好き嫌いやパフォーマンスにも影響を及ぼす有効な指標である。組織の在り方が大きく変化している昨今、社員の幸福度を高めることは、未来型で強い組織をつくるうえでますます重要になっていくだろう。

そのためにはまず、経営陣から変わる必要がある。本当に社員一人ひとりを幸せにしたいという思いがあるかが問われるのだ。以前、とある大手企業の社長から「社員が幸せになることの意味がわからない」と言われたことがある。目先の利益を追いすぎて、社員の幸せを追求する本質的な意味が理解できていないのである。

本来は、社員一人ひとりが尊重され、やりがいを感じながら働くことが利益や成長をもたらすはずだ。人事や人材開発担当者には幸福度の重要性について理解していただき、社員が幸せに生き生き働けるような支援をしてもらいたい。

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