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特集2│ CASE2 │仕事旅行社
手軽にできる越境的学習
大人の短期職業体験で
仕事基礎力を磨き
“働き方迷子”から抜け出す

「今後も今の仕事を続けていくべきかわからない……」「仕事にやりがいを感じられない……」など、仕事やキャリアにまつわる悩みはつきないものだ。
そうした悩みの処方箋として、短時間の職業体験「仕事旅行」という手がある。
仕事をするうえでの基礎力を磨く効果もあるらしい。どんな旅なのかを見てみよう。

内田靖之氏 仕事旅行社 取締役
河尻亨一氏 仕事旅行社 キュレーター 

株式会社仕事旅行社
2011年設立。日帰りで職業体験ができる「仕事旅行」や、1日~数カ月の期間で求職者に仕事を体験してもらう「おためし転職」など、各種職業体験イベントの企画・運営、職業イベント紹介ホームページの運営等を行う。資本金:1,597万円(2019年6月現在)

[取材・文]=瀧川美里 [写真]=仕事旅行社提供、瀧川美里

働く大人のための職業体験

大人向けに半日~1日などの短期の職業体験を「仕事旅行」と称して提供している会社がある。受け入れ先には全国約180カ所から、イルカトレーナー、ねぶた師、左官職人など、珍しい職種・職場が多く並ぶ。

「社会人になると、異なる業界の職場をじっくり訪問する機会はなかなかありません。しかし、普段とは違う仕事を体験する機会は社会人にこそ大きな意味をもち、働き方を見つめ直すきっかけになるのではないかと考え、2011年からサービスを立ち上げました」(取締役の内田靖之氏)

参加したいユーザーは、Webサイト上で希望の職場やプログラムを選んで申し込む。訪問先では実際の仕事体験はもちろん、その職場で働く人が大事にしていることや、仕事のつらさ・醍醐味等について話を聞くことができる。

同社のブランディングを担当する河尻亨一氏は、サービスの特徴や、学びを喚起するうえで意識していることについてこう語る。

「気軽に『越境気分』を感じられる、というのがまず1つ、大きな特徴です。留職や留学などの“越境学習”には費用や手間がかかるものも多いですが、『仕事旅行』では半日~1日と短期のプログラムがほとんどです(図1)。

2つめには、振り返りを重視していることが挙げられます。めったに見られない現場を見るだけではなく、実際に体験し、その道のプロフェッショナルの想いやストーリーを聞くことで、参加者は新鮮な刺激を得ます。その刺激を忘れることなく、自分は何を感じたのか、何ができて何が苦手だったのかなどについて、冷静に振り返る時間をもち、経験から学ぶことを推奨しています。企業の研修利用の場合、体験記の冊子づくりをセットにすることで経験学習にされていることもあります」

現在地と目的地が見え 情熱をもつ自分に再会

単なる社会見学やワークショップからは一歩踏み込む体験だ。どんな人が参加し、どんなことを学び取っているのだろうか。

「様々な年齢層と背景をもつ方が参加していますが、『視野が広がった』、『自分を見つめ直せた』という感想が多いですね。また『何年働いても自分の仕事に自信がもてない』、『仕事一筋でやってきたが、井の中の蛙になっているのではないかと不安』といった悩みを抱える仕事迷子、働き方迷子とも呼べるようなユーザーさんもいます。そういった方々が仕事旅行に参加すると、自分の得意なことや足りないものに気づいて、自信を取り戻したり、自身を見直したりできるようです」(河尻氏)

たとえば、「憧れの仕事を見てみたい」と思い、ある職人の工房に体験に行くと、キラキラした良い面だけではなく、ベテラン職人の悩みなども聞く。すると「ベテランの方でも悩んでいるんだから、自分にも悩みがあって当然だ」と感じ、意識が変わる、といった具合だ。仕事への向き合い方や心持ちが変わるきっかけになる。

「世の中にあるすべての仕事に就いてみることはできませんが、複数の職場を訪問することで、今の自分が相対化され、現在地や目指したい方向がわかるようになると思います。『この仕事は自分に向いていそうだな』、『憧れの仕事だったけど、自分には向いていなさそうだな』など、体験をもとに判断できるのです」

体験してみた結果、「いかに今、自分が恵まれているかがわかった」という声も上がる。

「企業研修で活用いただいた際、“やらされ感”のない職場を見た結果、働くことに対する主体性が増し、社員が生き生きし始めた、というお話がありました。また、内定者研修の例では、体験先で働く方から『学生の時よりも今の方が充実しているよ』という声を聞き、社会に出ることに不安を感じていた内定者が『働くことは楽しいんだ』というマインドをもち帰ることができたともお聞きしています」(内田氏)

伸ばしにくい能力をどうすれば伸ばせるか明示

2019年の春からは、「学び」の要素をより明確にすべく、仕事旅行の職種や内容に応じて体験プログラムを「6つの基礎力(図2)」に分類した。これは経済産業省が示す「社会人基礎力」をアレンジしたものだ。

「こうした基礎力は、パソコンに例えるとOSの部分にあたります。必要な専門スキル=ソフトは職業によって変わりますが、その基盤にある仕事基礎力、たとえば『長く続ける力』、『周囲に働きかける力』、『人の声によく耳を傾ける力』、『発想力』、『自分から主体的に動く力』などは、どんな仕事に就くうえでも必要なものです。ところがその部分は、一度社会に出てしまうとなかなか振り返れないものですし、仕事のなかで何をどうすればそれらの能力を伸ばせるのかもわかりにくい。そこで、6つの基礎力をバランスよく振り返り、それぞれの体験でどんな基礎力を伸ばせるかを示しました。普段使っていない筋肉(能力)を伸ばして心身を整えられる“ヨガ”のようなイメージです」(河尻氏)

最近増えているのが、定年を間近に控えた年配層の参加だ。「定年後も自分の力を生かして社会に貢献できる働き方を探りたい」という思いからである。

「働き方が“マラソン型”から“トライアスロン型”に変わってきています。かつては1つの職種を極めればゴールにたどりつけましたが、今は働く期間の総距離が伸び、途中で別の職種に就く可能性が高まっている。そう考えると、様々な力をバランスよく柔軟に身につけるための、仕事基礎力の“筋トレ”をしておいた方がいいのではないでしょうか。その点において仕事旅行は、1日だけ通うジムのような役割を果たせるものだと考えています」(河尻氏)

受け入れ側も学びになる

なお仕事旅行では、参加者側だけではなく、受け入れ側にも学びがあるという。それに気づき、研修の一環として若手社員に体験プログラムの説明役を担わせている職場もある。

「参加者に対して説明をすることで、自分の仕事の内容や意味を整理でき、棚卸しになります。また仕事に対する思いを参加者に伝えることで、『自分もまだまだ頑張れるな』という思いが生まれたり、参加者から思いもよらない承認を受け、『今まで以上に仕事に情熱を感じるようになった』という方も少なくありません」(内田氏)

外部からの刺激が得られることも、受け入れの利点だ。参加者からの新鮮で多様な意見を取り入れることで、「こういう商品を作れば若い人に売れるかもしれない」といった、今までにないアイデアが生まれることもある。たとえば山口県萩市を“編集する”仕事旅行では、参加者と編集者が町を歩き地元住民と交流。参加者に外からの目線で町の魅力を感じてもらい、町おこしのビジネスアイデアをもらっている。プログラムの内容は各受け入れ先に委ねているが、受け入れ先から「こういう機会にしたい」と目的を明確にした要望も増えているという。

コンパスの今後

学びにも遊びにも見えるという仕事旅行。今後は楽しいから学び、学びになって楽しいという難しいバランスをとりながら、学びを訴求する部分では、「効果をさらに高めるため、複数のプログラムに参加する『旅めぐり』などのしくみ化に取り組む」と河尻氏。「はたらく私のコンパス」という仕事旅行のコンセプトどおり、キャリアの方向性を求めたり、仕事基礎力を高めたりするうえで、楽しくナビゲートしてくれそうである。

Learning Design 2019年07月刊