J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2010年10月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 顧客志向とチャレンジ精神変化をいとわないDNAが次の100年へ道筋をつける

日東電工は、フィルムやシートに付加価値をつけ、液晶用光学フィルムといったエレクトロニクス製品から、両面接着テープなどの一般工業製品、自動車や医療、水処理などの幅広い分野での製品を開発し、世界的な企業として業績を伸ばしてきた。同社の成長を支えたのは、「常にお客様に満足を与え続ける」「未知の分野に挑戦する」「変化をいとわない」といった“顧客志向に基づく挑戦”を育む組織風土だ。2018年に創業100周年を迎える同社は、このDNAを守り伝えることで、成長し続ける企業をめざす。

柳楽 幸雄(Yukio Nagira)氏
生年月日 1948年1月28日
出身校 鳥取大学工学部
主な経歴
1971年4月 日東電工入社
1989年10月 電子材事業部門オプティカル材事業ユニット長
1993年4月 表示部材事業部門オプティカル材事業部長
1998年6月 取締役 光学事業部門オプティカル事業部長
2000年4月 取締役 オプティカル事業部門長
2001年6月 常務取締役
2003年6月 取締役 兼 常務執行役員 経営統括部門長
2004年6月 取締役 兼 副COO
2007年6月 取締役 兼 専務執行役員 オプティカル事業本部長
2008年4月 取締役社長 兼 COO
2009年4月 取締役社長 兼 CEO COO CTO
現在に至る

日東電工
1918年設立。粘着技術や塗工技術などの基幹技術をベースに、シートやフィルムにさまざまな機能を付加。液晶用光学フィルムや自動車用部品、経皮吸収型テープ製剤など、グローバルに幅広い分野で、数々の製品を作り出している。
資本金:267億円、売上高:6018億円(連結)、4209億円(単体)、従業員数:3万1088名(連結)、5788名(単体)(すべて2010年3月期)
インタビュアー/赤堀 たか子 写真/山本 真也(スタジオフロス)

異質で未経験の仕事が人を飛躍させる

── 柳楽社長は、工学部出身ながら、研究職ではなく、営業畑を歩いてこられたそうですね。

柳楽

営業に配属になったのは、自分の希望でもありました。入社前、研究職、営業職のどちらにも興味があったので、両方希望を出したら、営業に配属されたのです。ただ、大学の研究室の先生からは、「税金を使って勉強させてもらった者を、“営業なんか”に出すつもりはなかった!」と、ひどく叱られましたけどね(笑)。

最初に配属された電気絶縁材料の事業は、1918年の日東電工(当時は日東電気工業)創業時からあった部署で、お客様との付き合いも古く、良好な関係がすでに確立されていました。ここで私は“組織対組織”の仕事の仕方を学びました。出来上がっている関係に入っていくので、かえって自分の存在感を出すのが難しかったものです。

── その後、畑違いのオプティカル材事業へ行かれたのですね。

柳楽

電気絶縁材料の部署で16年営業を経験した後、2年半の電子材料関連のマーケティングを経て、1989年にオプティカル材事業のユニット長になりました。

それ以前、当社では工場と営業は別々の組織だったのですが、マトリックス組織にし、16の事業部ごとのユニットに組織構成を変えました。その中の1つの責任者を任されたのです。

それまで経験したことといえば、営業がほとんどで、マーケティングも2年半程度だけですから、財務や技術、製造の知識もありませんでした。しかも、未経験の部門なので製品知識もなかった。加えて、この新しい組織体制下ではマネジメントの仕方も変わる。ずいぶん乱暴なことをする会社だなとは思いましたが(笑)、その時のユニット長全員が同じ立場でしたから、「自分だけが大変だ」とは思っていなかったですね。

とはいえ、わからないことばかりでは仕事になりませんから、とにかく何でも聞いて回りました。開発、製造、営業の全体を知っている人はいないものの、各分野のスペシャリストはいましたから、技術のことは技術の詳しい人に、財務のことは財務のわかる人に、という具合に、知識のある人にいろいろと教えてもらいながら、何とかやっていました。

とにかく一歩踏み出し成功も失敗も経験せよ

── そうした“未知への挑戦”の経験をお持ちだからでしょうか、柳楽社長は、「まず一歩踏み出せ」ということを社内外でよくいわれていると伺いました。

柳楽

新しいことに取り組むと視野が広がりますし、やってみて初めてわかることもたくさんあります。

── ですが、その一歩を踏み出すには、失敗もつきものです。

柳楽

もちろんそうです。私自身、営業時代、何でもやってみよう、どこへでも行ってみようと、結構自由にやっていましたから、恥ずかしい思いもしましたよ。

いろいろ工夫してお客様に働きかけ、ようやく出入りが許されるようになったら、調子に乗って“部外者禁止”のところにまで入ってしまい、怒られたという経験もあります。しかし、その失敗があったからこそ、踏み込んでいいところ、いけないところがわかり、仕事の進め方や処世術のようなものも覚えたのです。

一歩を踏み出した後、もう一歩進んでいいかといった微妙な判断は、実践を積んで初めてできるようになります。しかし最近は、与えられた課題に対し、あらかじめ決まった答えがあると思っている社員が結構いるようです。それは、“ハウツー本”に慣れてしまっているからでしょう。

今は、さまざまなマニュアルがあふれており、遊びから仕事まで、本を読んだり、ネットで調べたりすれば、おおかた答えがわかるようになっています。しかし、実際に仕事で出会う問題や課題には、明快な答えがないことのほうが多いですから、簡単に答えが見つかる環境に慣れてしまっていると、ちょっと難題にぶつかったとたんに挫折してしまうんですね。そうならないためにも、とにかく自分でやってみて、時に失敗しながら解決策を見つけていくことが大切なのです。

── 失敗も貴重な経験ということですね。

柳楽

私が一番まずいと思うのは、“1勝0敗”という勝ち方です。1つの勝ち方しか知らないから、応用ができない。“2勝0敗”ならまだ2パターンの勝ち方を知っていますが、それでも勝ち方しか知らない。4勝3敗くらいの割合で、成功体験・失敗体験の両方を持つのが理想ですね。

上司は部下を見て見ぬ振りをせよ

── 「一歩を踏み出せ」と並んで、上司には、「片方の目をつぶる覚悟を持て(見て見ぬ振りをせよ)」ともいっておられます。

柳楽

“一歩を踏み出す”ことと“片方の目をつぶる”ことはセットなのです。失敗から学ぶことは多いけれど、あまり上のポジションになって失敗すると影響も大きい。ですから、なるべく早く、若いうちに失敗を経験させておくのがいい。

しかし、最近の若い人には、新しい環境にあえて身を置くことを嫌がる人も多い。当社では「日東University」という機関をつくり、次世代のリーダー養成のための選抜教育を行っていますが、そこに自ら手を挙げて参加している人にさえ、現状のままでいいと考えている人はいます。だから上司は、チャレンジできる環境の中に部下が入れるよう背中を押してやる必要があります。危なっかしいこともあるでしょうが、それも勉強の機会ととらえ、いったん背中を押したら、細かいことには口を出さずに、本人に任せてみる。ただし、取り返しのつかない失敗をしてしまってはいけないので、上司は、常に観察するのではなく、見て見ぬ振りをしながら、陰ながら見守るんです。

── ご自身も、上司に片方の目をつぶってもらったと思われますか。

柳楽

かなりつぶってくれていたのでしょうが、部下の立場から上司を見ると、片方の目をつぶるどころか、“両目をしっかり開けて見ている”という印象が強かったなぁ(笑)。

当社は面倒見がいい会社で、入社した最初の1年間は、公私にわたってあらゆることを相談できる“職場先輩制度”があるんです。昔は「職場先輩をたどるとその人のカラーがわかる」といわれるくらい先輩の影響力が強く、それはもう箸の上げ下げまで細かく指導されました。

ただ、面倒見も良過ぎると、かえって自分で考える機会を奪ってしまう。ですから最近は、「箸の使い方は教えても、実際の動かし方は、本人に考えさせろ」といっています。

多種多様な経験こそ専門家をプロにする

── 成功や失敗を経験させるためには、どんな施策が必要でしょうか。

柳楽

ローテーションが重要ですね。新しい環境に置かれると、発見もあるし、勉強もしなければならなくなります。

当社は事業部制になって約20年経ちますが、事業部内だけで異動しているケースが多く見受けられます。また、社員の中には、同じ部署にいたいと、現状維持を希望する人も増えています。未知の経験をさせるためにも、今後は、事業部の壁を超えた異動ももっと考えないといけないでしょうね。

── 事業部を超えた異動を増やせば、技術者などのスペシャリストが育ちにくくなるという心配はありませんか。

柳楽

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:3,204文字

/

全文:6,408文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!