J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2021年01月刊

特集│HR TREND KEYWORD 2021│組織│OODAループ 計画より即断即決 ニューノーマル時代を生き抜く組織とは

VUCAの時代とよばれ、さらにコロナ禍で先行きの不透明感が増す現在、PDCAサイクルに代わるマネジメントのしくみとして注目されているのが「OODAループ」だ。
OODAループとは何か、また組織への導入時の注意点などについて、日本におけるOODAループの第一人者、原田勉氏に聞いた。

原田 勉(はらだ つとむ)氏
神戸大学大学院 経営学研究科 教授

神戸大学大学院経営学研究科教授。1967年京都府生まれ。
スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。
専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。
大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。
著書に、『イノベーションを巻き起こす「ダイナミック組織」戦略』(日本実業出版社)ほか多数。
訳書に『OODALOOP(ウーダループ)』(東洋経済新報社)などがある。

[取材・文]=増田忠英 [写真]=原田 勉氏提供

戦争分析によって生み出されたOODAループ

OODAループは、元米国空軍大佐のジョン・ボイドによって提唱された競争戦略の理論で、もともと湾岸戦争などの軍事戦略に用いられ、成果を上げてきた。「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「行動(Act)」という4つのフェーズで構成される。

原田氏は、ボイドがOODAループを理論化した背景について、ボイドが分析した数多くの戦争から、2つの例を挙げて説明する。

「1つは、朝鮮戦争で戦ったソ連製戦闘機ミグ-15と米国製戦闘機F-86の差です。性能はミグ-15の方がわずかに優れていたにも関わらず、撃墜率ではF-86が10対1で圧倒しました。その要因は、視界の広さと操縦桿の軽さでした。このことからボイドは、様々な物事を観察し、素早く行動に移すことの重要性に気づいたのです。

もう1つは、第二次世界大戦において、ドイツ軍がイギリス・フランス連合軍に奇襲作戦を仕掛け、数週間で降伏させた電撃戦です。戦力に劣るドイツ軍が勝てたのは、敵の裏をかいたところにあります。それが可能だったのは、敵よりも早く観察して行動に移したためでした」(原田氏、以下同)

こうしてボイドは、観察から情勢判断を行い、意思決定を下して行動に移すOODAループを理論化した。

「OODAループはPDCAサイクルのように順番に行うのではなく、同時並行的に行うものです。特に重要なのはD(意思決定)を除いたOOAであり、観察→情勢判断→行動はほぼ同時に起こります。これは、スポーツで考えるとわかりやすいでしょう。たとえばテニスの場合、相手が打ってきた球を見て、おそらく瞬間的に体が動いています。そこで意思決定をしていては間に合いません。軍事でも同じです。直観的に判断して行動し、そして修正していく。これは、我々が日常生活で自然に行っていることでもあります」

コロナ禍によりリモートワークが広がるなか、直観的に行動するOODAループの必要性はいっそう高まっていると原田氏はとらえている。

「製品開発の現場では、試作品を作って顧客のフィードバックを得ながら改良していくプロセス(プロトタイピング)が、現物ではなくバーチャルで行われるケースが増えています。バーチャルであれば、現物に比べてコストをかけずスピーディに対応できるため、試作品作りとフィードバックを何度も繰り返すことが可能です。それが意味することは、意思決定が現場に委ねられるということです。いちいち上司の決裁を待っていては遅くなりますし、また、コストがさほどかからないため、失敗してもやり直すことができる。こうした状況では、OODAループはますます機能しやすくなります」

PDCAサイクルでは非効率な領域がある

一方で、OODAループを組織的に実践することの難しさを原田氏は指摘する。その理由の1つとして挙げるのが、PDCAサイクルの存在だ。

「日本企業にはPDCAサイクルが根強く存在しますが、Planから始まるPDCAは、計画がなければ動けないしくみです。企業のなかには計画策定に半年以上かけているところもありますが、その間に状況が変化してしまうことは少なくありません。また、そもそもイノベーションを起こすために計画を立てることは不可能です。そのため、多くの企業が計画立案に苦労し、ほとんど儀式と化しているのが実情ではないでしょうか」

PDCAサイクルが有効な領域もある。生産部門や予算などは、計画を立ててPDCAを回すことが不可欠だ。それに対してOODAループは、不確実性の高い研究開発部門や、即断即決が求められる営業やサービスの現場などに適しているという。

「問題は、このように本来OODAループが適している領域においても、PDCAサイクルが導入されてきたためにOODAループを活用できない組織があることです。

ある研究所では、3年間で3億円の予算をつけるから、好きなようにやれと現場に指示しておきながら、3カ月ほどすると研究所長が進捗状況を聞くようになり、半年後に目立った成果が出ないと、今度は陣頭指揮を執り出し、現場は大混乱に陥りました。このように、PDCAサイクルが染みついた組織では、上司は現場に権限を委ねることがなかなかできません。

計画に基づいて実践されるPDCAサイクルに対して、OODAループはミッションに基づいて実践されます。その違いは、計画が現場の実行方法まで決めるのに対して、ミッションが決めるのは『いつまでに何をやる』という目標だけであり、方法はあらかじめ決めず、現場が臨機応変に対応するところにあります。

PDCAサイクルが根強い日本企業では、そのやり方が業務の非効率性を生じさせている可能性があります。そこで、PDCAサイクルには適さない領域において、個人レベルでも組織レベルでも活用できるものとしてOODAループを提唱しています」

実践の鍵を握る2つの「O」

OODAループの実践におけるポイントとして、原田氏は2つの「O」を挙げる。

まず「観察(Observe)」については、何を観察するかが重要になる。

「センサーメーカーのキーエンスが高収益である理由の1つは、ヒット商品が多いことです。背景には、製品の企画から生産、マーケティングまで一気通貫で担う企画立案担当者の存在があります。彼らが重視しているのは、『どの顧客が何をどれだけ買ったか』という営業情報ではなく、『顧客の現場でどのような改良すべき問題があるのか』という開発情報をつかむことです。

たとえば、生物学や医学の研究に用いられる蛍光顕微鏡は、従来は暗室の中で顕微鏡を覗いて観察するために、1人でしか観察できませんでした。その様子を見た企画立案担当者は『明るい場所で多人数で同時に観察できた方がよいのではないか』と気づきます。そこで、蛍光顕微鏡をケースで覆い、明るい室内でパソコンにつないで複数人で同時に観察できるように改良した製品を販売し、ヒットさせました。

こうした開発情報が得られるのは、代理店販売をしている同業他社と異なり、キーエンスが直販で顧客と直接取引をしているからです。営業担当者を介して、顧客の現場を直接観察できることが強みになっています」

このように、継続的に成果を出している組織は、何を観察するかに独自の工夫があると原田氏は指摘する。

「観察力を磨くには、問題意識をもつことが出発点です。そのうえで、周囲と同じ条件にもかかわらずうまくいっている人を見つけ、その人の創意工夫から学ぶことが有効でしょう」

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,414文字

/

全文:4,828文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!