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月刊 人材教育 2017年08月号

人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第58回 「ル・アーヴルの靴みがき」川西玲子氏 時事・映画評論家

「ル・アーヴルの靴みがき」
2011年 フィンランド・フランス・ドイツ 監督:アキ・カウリスマキ

川西玲子(かわにし れいこ)氏
1954年生まれ、メディア・エンタメ時評。中央大学大学院法学研究科修士課程修了(政治学修士)。シンクタンク勤務後、企業や自治体などで研修講師を務めつつ、コメンテーターとして活動。著書に『映画が語る昭和史』(武田ランダムハウスジャパン)、『戦前外地の高校野球 台湾・朝鮮・満州に花開いた球児たちの夢』(彩流社)等。




『ル・アーヴルの靴みがき』
発売元:ユーロスペース/キングレコード
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マルセルはル・アーヴルの駅前で靴を磨くことを生業としている。あ
る日、港にアフリカからの不法移民が乗ったコンテナが漂着し、警
察の検挙をすり抜けた少年・イドリッサと偶然出会う。2011年カン
ヌ国際映画祭国際批評家協会賞、エキュメニック賞スペシャル・メ
ンション、2011年シカゴ国際映画祭グランプリを受賞。
© Sputnik Oy

フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキは、日本でも人気が高い。『浮き雲』『過去のない男』『街のあかり』は、敗者三部作という珍しい呼称で親しまれている。大げさな演出や演技を一切排した淡々とした描写で、市井で生きる人々の慎ましい日常と人生を描く。日本人好みの作風である。

この映画は、敗者三部作を完成させた後の2011年につくられた。フィンランド、フランス、ドイツの合作で舞台はフランスである。当時、既に深刻になっていた難民問題を絡ませた、現代のおとぎ話だ。

主人公のマルセルは港町ル・アーヴルで、ベトナム移民のチャングと靴磨きをして暮らしている。若い頃はパリで作家をめざしていたこともあるらしい。だが今はあまり多くない収入を手に帰宅し、妻と飼い犬に迎えられるのを喜びとしている。

○深刻な問題をおとぎ話として描く

映画の冒頭、マルセルとチャングが通り過ぎる人々の足元を見ている場面が印象的だ。靴磨きが必要な革靴を履いている人は、今やそれほど多くない。スニーカーが足早に通り過ぎていく。

そういえば日本でも、靴磨きはほとんど見かけなくなった。私はこの映画を観るまで靴磨きの存在を忘れていた。昔はどの通りにも必ずいたものである。夫を戦争で亡くし、靴磨きをしながら女手ひとつで子どもたちを育てた人のことなどが、よく新聞記事になっていた。

マルセルはある時、アフリカからコンテナに乗ってきた密航者の一団が発見される現場に出くわし、1人の少年が逃げ出すのを見た。そしてその少年をかくまうことになる。その理由についての説明は全くない。マルセルが難民問題に胸を痛めていたとか、人道主義者だったというような話でもない。ただただ、ほとんど本能的にかくまうのである。

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